著者の綿密な調査の上に幾つかの面白い結論を出している。その中の幾つかは小売業やメーカーでマーケッティングを行なっている人に大変貴重な示唆を与えるものだ。簡単にいうとこれからは金持ち相手の商売をしろ!ということだ。実際そのような動きは出ている。例えばレクサス・ブランドの出現だ。レクサスの名前を付けただけで、同じモデルの車が数十万円以上高い値段を付けても売れるのだから面白い。銀行もそうだ。つい1,2年前まで外銀を除いて大部分の金融機関がプライベートバンキング・ビジネス=超富裕層取引に熱心でなかったが、いまやほとんどの大手銀行がプライベート・バンキングに力を入れだしている。
またこの本を読んだ心ある若者や若い親達は、自分の進路や教育方針を見直すかもしれない。筆者は言う。「下流」とは、単に所得が低いということではない。コミュニケーション能力、生活能力、働く意欲、学ぶ意欲、消費意欲、つまり総じて人生への意欲が低いのである。その結果として所得が上がらず、未婚のままである確率も高い。
これも筆者の重要な結論だ。
ところで私が個人的に興味深かったのは、団塊ジュニア(1970年~1975年頃誕生)世代の女性で「上流」意識を持っている人が気に入っている時計のブランドがオメガ等を押さえてセイコーやシチズンであるということだ。
実は少し前私はオメガからシチズンの電波時計に変えたので特にこの箇所が印象に残った。オメガからシチズンに変えた理由はオメガの鎖が切れたので修理しようとしたところ、大変な時間と費用がかかることが分かったからである。また自動巻きのオメガは少し外していると止まってしまうし、月末には日付の調整をしなければならない。それに較べて電波時計は、全くのメンテナンスフリーだ。
そもそも時計とは「正確」で「手間がかからず」「そこそこの堅牢性」があることが最大のポイントだ。それをやれデザインだの、手巻きに味がある等と講釈を付けるのは時計メーカーのセールストークに過ぎないだろう。時刻合わせに気を使うより、世の中にはもっと沢山しなければならないことがある。
因みに言えば先程の時計の調査で下流階級ほどロレックスやオメガを好む傾向が出ている。外見以外に自分を際立たせるもののない下流階級の悲しい性(さが)が垣間見えて面白い。