最近のエコノミスト誌に農林中金が新しいビジネスモデルを模索していると言う主旨の記事が出ていた。原題はIn serch of a new furrow / Agricultural reform poses a challenge for Japan's agricultural bankというものだ。つまり日本の農業改革で農林中金が新たな局面を向かえているというものだ。特段重要な内容はなく、埋め記事のような気もするが少し面白い話なので紹介したい。余談だがエコノミスト誌の文章が難しいのは洒落のため難しい英語を使うところにある。例えばfurrowということばだが、これは畠の畝と畝との間のみぞとかみぞを掘るという意味がある。農林中金だから畠のみぞなのだろうが、私はfurrowなどという言葉は知らなかったので辞書を引くことになった。
さて記事のポイントを紹介してから農業法人のことなど少し見てみよう。
- 農林中金は二つの顔を持っている。一つは洗練された国際的金融機関で、総資産62兆円を保有し日本第4位の商業銀行というものである。もう一つは数百万人の農林漁業者の預金を管理するために1923年に設立された小さな準公的機関というルーツを反映するものである。
- 両方の顔ともこれまで笑っていた。1980年代のバブル期に他の銀行が不動産担保融資で巨利を得ていた時、農林中金はまだ相対的に小さくついていけなかった。その頃農林中金は製紙業、スーパーマーケット、農業関連ビジネス等への融資は行なっていたものの、大部分の資金は日本国債で運用していた。その後円金利が下落し、農林中金は債券投資は極めて優良資産になった。一方90年代についにバブルが崩壊し他の銀行には不良債権と価値のない担保が残った。
- この時他の銀行は国際市場で資金を調達する時1%以上のジャパン・プレミアムを払わされたが、農林中金は海外特にロンドン・ニューヨーク支店でその高い信用力を使い、邦銀の資金調達のラストリゾートとして資金を供給した。
- 農林中金は国内でも同様に時々に資金の出し手となった。「我々はかって大手町~農林中金の本店がある~の中央銀行と呼ばれていた」と同金庫のある専務は思い出を語る。国内で農林中金はその優れた資産運用能力を活かし、田舎の小さな預金者に年約0.8%の預金金利を提供している。0.8%というと低い様に響くが、デフレ経済下の日本ではこの金利は他の商業銀行の金利の約25倍である。
- しかし今農林中金は最大の挑戦すべき局面に面している。それは日本が農業システムを変革中だからである。それは農林中金の主な顧客である小規模の農家が持つ農地を集合化するシステム~農業生産法人化~が進んでいるからだ。他の銀行はこれをビジネスチャンスと見て農業ビジネスに対する融資を始めている。最近まで商業銀行は農業への貸付をリスクが高く、低収益のビジネスと考えていたので、この分野は農林中金の独壇場だったが、今農林中金にとって新しい競争相手が現れた訳だ。
- 今のところ農林中金はバブル期と同様再び他行と反対の戦略をとろうとしていると見受けられる。商業銀行は農業ビジネスへの融資に動き出したが、農林中金はフォーカスを変えている。農林中金は現在金利リスクより信用リスクを取っている。例えば米国の資産担保債券に12兆円の投資を行なって米国への投資を倍にした。また単独主義を捨てみずほ証券と提携したり、三菱UFJに出資してカードビジネスの改善と拡大を図っている。
- 農林中金は賢い農夫の様に畠が混んできたので鋤の方向を転換しようとしている。
農業法人のことを調べようと思って社団法人 日本農業法人協会のホームページを見てみた。http://www.hojin.or.jp/ そうすると三菱東京UFJのバナー広告が目に入ったのでまずそちらを見る。http://www.bk.mufg.jp/chusho/info/050819.html これは同行が農業法人協会と提携して一法人当たり最大5千万円、最長5年、金利は2.55%以上で融資を行なうというものだ。なるほどエコノミスト誌が言うように大手都市銀行が農業ビジネス融資に積極的になっている。
さて農業法人だが法人形態から「農事組合法人」と「会社法人」に区分され、事業のために農地の取得が可能かどうかで「農業生産法人」と「一般農業法人」に区分される。農業法人の数は平成13年現在6,213法人で、形態は有限会社が一番多い(約4分の3の4,628社)。
資金需要の市場規模だが仮に全農業法人に5千万円の融資が発生するとして、5千万円の6千倍で約3千億円となる。また平成17年に農業法人協会が会員に行なった調査で約360法人の回答者から平均的な年間設備投資額が5.5千万円程度という回答を得ている。従って今のところ3千億円程度の規模の市場と見ておいて良いのかもしれない。また同調査によれば畜産業従事者の景況感は明るいが稲作等は暗く、農業全体の景況感は先行きに少し明るさがあるものの、足元は曇りというところだ。この市場で数十兆円の資金を有する大手銀行が貸出競争でもすればたちまち儲からなくなるというのが農林中金の読みなのかもしれない。
ところで先程のエコノミスト誌の記事の中で農林中金がバブル期に上手く行ったのは長期的思考と良いタイミングと幾らかの幸運の混合物だったというくだりがあった。金融ビジネスも中々難しいものなのかもしれない。