金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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皇位継承問題を考える

2006年02月08日 | 社会・経済

昨日午後「秋篠宮紀子様が第三子ご懐妊」というニュースが流れたが、実はそれまで皇位継承問題に余り関心がなかった。関心がないというと国民としてどうなのか?というご意見もあるかもしれないが、私としては「帝力我において何かあらんや」(中国古代の皇帝堯の時代の詩の一節)というところだった。この一節は皇帝の力を軽視しているというよりは、国民が皇帝を意識しない程平和で安定した治世を堯が行なったという賞賛の歌であろう。

さて第三子ご懐妊で色々な議論が出てくると思われるので、少し判断材料になる事実について勉強してみることにした。まず皇室典範に関する有識者会議の報告書http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kousitu/houkoku/houkoku.htmlを読んでみた。その結論は「今後における皇位継承資格については、女子や女系の皇族に拡大することが適当である。」というものであるが、幾つか重要な論点を抜粋してみる。

  • 明治22年の旧皇室典範(以下「明治典範」という。)の制定までは、皇位継承についての明文の規定はなかった。明治典範で皇位継承資格が男系男子(非嫡系を含む。)に限定された。
  • 明治以前は皇統に属する男系の者で皇族の身分を有するものにより継承されてきた。その際、半数近くは非嫡系による継承であった。また、10代8方の女性天皇(男系女子)が存在するが、その性格や位置付けについては、必ずしも一括りにすることはできない
  • 昭和22年に制定された現行の皇室典範(以下「現行典範」という。)で、嫡出であるという要件が加えられた。 この結果、現行制度は、歴史上、皇位継承の仕方が最も狭まったものとなった
  • 明治天皇以降の天皇及び天皇直系の皇族男子のうち、大正時代までにお生まれになった方については、お子様(成人に達した方に限る。)の数は非嫡出子を含め平均3.3方であるのに対し、昭和に入ってお生まれになった方については、お子様の数は現時点で平均1.6方となっている

つまり過去の男系皇位継承制度というのは、天皇の内妻の存在を前提として可能だった制度ともいえるのである。現在では非嫡出子継承という訳には行かないので女子や女系の皇族まで皇位継承権を拡大しないと安定的に皇統を継承できないというのが議論のポイントだろう。

次に欧州の王室の王位継承権について見てみると2つのタイプがある。簡単にいうと英国・スペイン型は「男系皇族に優先継承権を認めるが女子が王位についても可」というもので、デンマーク・ノルウェイ型は「男子であれ女子であれ一番年上の王位継承権者が王位に着く」というものである。

次に中国の歴代王朝について考えてみた。記憶が正しければ中国の歴代王朝を通じて女性が皇帝の地位についた例は唐の則天武后しかいないはずである(西太后のように権力を握った女性は沢山いるが皇后・皇太后等のポジションにいた)。つまり男系の天皇限定という考え方は極めて中国的=儒教的な考え方と推測される。

次に日本における女性天皇の状況を見てみる。8名の女性天皇の内6名は奈良時代以前、2名は江戸時代に即位している。推古天皇から称徳天皇に至る古代の女性天皇の即位の経緯・背景はそれぞれであるが、一言で言えば外戚等豪族の力が強く、影響力を行使し易い女性天皇が選ばれたというケースが多いだろう。江戸時代の2人の女性天皇については明正天皇が7歳から21歳まで即位、後桜町天皇が23歳から31歳まで即位しその後男子の天皇に譲位し、奇しくも二人とも74歳で崩御している。ということから即位の背景は異なるものの男子の皇位継承者が現れるまでのつなぎ的な役割が強かったと判断される。

良し悪しは別として明治という時代は過去の伝統や文化を断ち切り、日本を富国強兵化し西欧諸国と伍して行くために壮大なフィクションを作り上げた時代といえる。一例は廃仏毀釈と国家神道の創設であろう。外交上問題になっている靖国神社もこの時代に作られたものだ。万世一系の男系天皇というのもある意味では明治時代に作られた一つのフィクション(必ずしも歴史的事実ではないという意味で)である。歴史を見れば皇室やそれを取り巻く権力者達は状況に合わせてもっと弾力的な対応を取ってきたことが分かる。

皇位継承問題も歴史の流れの中で弾力的に対応するべきものとすれば、私は英国・スペイン型の男子の優先相続権を認めながら、男子の承継者がいない場合は女子の皇位継承権を認めるという考え方が最も理にかなっているのではないか?と考えている。もっともこの様に皇室典範を変えるにしても、女性天皇の配偶者の問題等考えなければならない問題は多い。

問題を政治的な議論に持ち上げる前にまず縦(歴史)と横(他国の王室のあり方)を良く見ることが大切だ。そうすれば我々は長い伝統を思っていたものの中に精々数十年前に政策的に作られたものがあることが分かってくることもある。何が守るべき伝統で何が変えても良いしきたりなのかを良く点検するべきであろう。

コメント (1)
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