金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

5年位は日本株強気で行くか?

2006年02月16日 | 株式

最近の東証の動きがボラタイルになっている。これは日米特に日本の金融政策の変更に対する投資家の思惑の交錯や昨年来の株高に対する調整感等がベースにある。更に東証の午後の取引開始時間が30分繰り下げられて、先物だけの取引が行なわれる時間が30分あるためだ。つまりこの時間に先物が市場を撹乱している可能性がある。この様な中、日本の新聞は日本株の先行きについて強気・弱気説を併記している状態だ。しかしこういう時こそ少し腰を落ち着けて5年位の先を見据えて自分の資産形成を考えることは悪くはない。

ところで私は時々「目先のことと遠い将来のこととどちらが予測し易いか?」と考えることがある。「明日のことが分からず遠い将来のことが分かるか?」と言う向きもあるかもしれないが、私はものによっては将来のことの方が予測し易いと考える。

一つの例で考える。ごつごつした坂の上からボールを転がすと考えてみよう。ボールがどのルートを通って坂下にたどり着くか予測することは困難だ。しかし何秒後かにはまず~どこかでひっかかったりしない限り~ボールは下に落ちている。どのコースを取ろうともだ。

つまり目先の予測とは経路=パスを予測することで、遠い将来の予想とはゴールを予想することでありものによっては経路よりゴールの方が予想し易いといえる。この考え方を株式の短期取引と長期投資に当てはめてみると、短期取引とは目先の経路を予想することで長期投資とはもっと大きな流れの中で経済や企業の業績を予想していくということである。私は明日の株価が上がるかどうかよりは5年後に株高になっているかどうかを予想する方が確実だと思うのだが如何なものだろうか?もっともボール転がし例の様に坂の途中でボールがひっかかり止まってしまうというリスクはある。人間にとって絶対の将来予測は「人は皆死ぬ」ということ以外まずあり得ないからだ。

さて前置きが長くなった。まずウオール・ストリート・ジャーナルの記事とエイジアン・インベスターの記事のポイントを紹介してからコメントを述べよう。

ウオール・ストリート・ジャーナルから

  • 2005年1月大手人材派遣会社パソナは30年の歴史の中で初めて派遣社員の給料を平均5%程度引き上げた。より高い賃金は何故日本が昨年10-12月に急成長をしたかを説明する。それは人々の給料が増えれば消費が伸び、経済成長を促進するからだ。エコノミスト達は金曜日にリリースされるGDP成長率について平均して5%の予測を立てている。
  • この成長率は第4四半期の年率換算成長率が1.1%に低下した米国を上回る。日本経済が健全な状態に戻ると世界経済にもう一つのエンジンが提供されることになる。日本が周辺の国からの輸出を増やしているので周辺地域の経済成長が助長され始めている。
  • ゴールドマン・ザックスの村上チーフエコノミストは「内需の伸びの強さはバブル崩壊以降初めてのこと」と言う。また「日本はコーナーを回った」というエコノミストの数が増えている。
  • 2005年の経済成長の約56%は消費により牽引されている。そしてこの消費は1997年以来始めての賃金の上昇に支えられている。結局日本は自己持続的な回復過程に入っているのかもしれない。賃金が上昇すると人々は消費を増やし、それが企業の増収に繋がる。またこの結果企業は賃金を引き上げることが可能になり、良い循環が生まれるのである。

記事はもう少し続くのだがエイジアン・インベスターの方を読んでみる。この本は香港等主に日本以外のアジア諸国の機関投資家をターゲットにした専門誌であるだけにもう少し突っ込んだ分析をしている。

  • 日興アセットマネジメントのCIO ビル・ウイルダー氏は言う。「3年間連続で日本株は良いパフォーマンスをあげている。これは主に経済の回復に牽引されている。これは1997年に我々が経験した偽りの夜明けではない。あの時は株のラリーは消費税引き上げに殺されたが」
  • アトランティス・リサーチのマーナー氏は「経済回復を持続するためには個人消費が必要だが、それがまさに起ころうとしているところだ」と言う。
  • 株式の需給についてゴールドマン・ザックスのキャッシー松本氏は最近のレポートで「日本は今1990年代初めにドイツとイタリアが投信業界の発展段階にあった位置にいるように見える。もし日本の個人資産に占める投信の割合がドイツ並に引きあがるとすると153兆円が投信に流入すると我々は見積もる」と書いている。この153兆円という数字は2003年以降の外人勢の記録的な日本株買いをも小さく見せる。
  • 日本株をサポートする他の材料はTOPIXとS&P500の連動性の低下である。1998年以降両者は並行して動いていたが、2004年後半頃日本の内需が回復したことを市場は認識し、TOPIXはS&P500の動きを離れて急上昇を始めた。
  • ところで何故TOPIXとS&Pの連動性が高かったかということを理解するには、TOPIXの産業構成を考察する必要がある。日本は貿易勘定がGDPの10%程度であり、経済全体としては極めて輸出主導型という訳ではない。しかし株式市場では電機、自動車、精密機械等輸出企業が大きな割合を占める。そこで日本経済の活力が低下した時は輸出企業のパフォーマンスがTOPIXを左右するのである。それ故TOPIXは世界特にアメリカの需要とセンチメントに依存する。
  • 労働コストについて見れば、やがて賃金の高い団塊世代が退職し、若くて技術があり安い人件費の世代に替わって行く。
  • 以上のようなことから今年TOPIXは昨年のように35%も上昇するということはないだろうが、10%程度は上昇するとポートフォリオ・マネージャー達は見ている。もっとも日興アセットのウイルダー氏の様にもっと強気の見方をする者もいる。同氏によれば慎重な見方でTOPIXは年末1500程度、中位予想で1,930、強気で2,130ということである。(因みに2月15日現在TOPIXは1624)
  • アトランティス・リサーチ社は日本株にとって良い時期は、労働力の減少と退職者の増加がGDP成長率に影響を与えるまで5年から10年の間続くと判断している。ゴールドマンザックスは女性の就業率が米国並みに上昇すれば260万人の労働力が出現し、日本の経済成長率を向う20年間1.2~1.5%引き上げると見る。ポートフォリオマネージャー達の大部分は人口動態の変化は株式パフォーマンスを悪化させるが2年から5年程度の間に起こることではないと見ている。
  • 勿論この強気のシナリオにもリスクはある。大部分のマネージャーはリスクは国外要因例えば米国の景気後退、鳥インフルエンザ、世界的な金利上昇、貿易戦争等である。しかし国内にも消費税引き上げ、年金と健康保険のコストアップといったリスク要因はある。また日本人投資家が超強気になって株価を急上昇させるリスクもあるが、誰もが80年代のバブルを覚えているので非合理的な熱狂にはブレーキがかかるだろう。

判断材料は揃ってきた。ところで日本の短期金利は既に0.1%程度上昇しているが、これは日銀が0.1%程度の金利上昇はゼロ金利の範囲と見ていることを既に市場が織り込んだということだ。個人的には短期金利についてはもう少し上昇すると見ている。ところで金利の上昇は株価に悪影響を与えるのだろうか?

古典的な経済理論では金利の上昇は株価に悪影響を与える。しかし現在の企業経営はもっと複雑だ。金利特に長期金利が上昇すると企業の退職給付債務は減少する。これは将来の退職給付債務を現在価値に引き直す割引率が上昇する結果債務の現在価値が減少するからだ。退職給付債務の減少は企業経営と収益に好影響を与えるので、株式市場にはプラス要因なのだ。世の中は複雑になっている。

ところで団塊の世代の退職をどう見るか? これについては4月から高齢者再雇用法が改正される。9割程度の会社は60歳到達者を嘱託として再雇用する選択を取ると見られているが、これは今までの半分程度の給料で再雇用希望者を企業が雇用できるということを意味している。企業が十分な商売を抱えているかぎりスキルのあるベテランを安い賃金で雇えるのでかなりのコストダウンになると考えることができる。

以上のようなことを付け加えて考えてみたが、ここ暫くは日本経済の持続的な回復に賭けて日本株に投資というのが資産形成上お勧めの様だ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする