金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

危ない日本の金融政策の逆行

2008年12月02日 | 金融

今日(12月2日)の日経新聞に「日本の金融規制緩和は世界の動きに逆行しかねない独自のルール改定に動いている」という記事があった。日本が突出して銀行に甘いルール改正に向かっているのは「銀行の株式保有を中核自己資本の範囲内に制限していた規制を緩和する方向」と「不良債権の認定基準を大幅に緩和した点」だ。貸出条件を緩和した債権でも5年間で再生可能な再建計画があれば不良債権と認定しないことにしたのだ。

この背景には「日本の金融機関や国民は金融機関への公的資金の投入を嫌う」という日本の特徴があると私は見ている。公的資金の投入についてアレルギーが少ないのは欧州で、最近の動きを見ていると米国もかなり積極的になってきた。彼等の政策は「金融機関の規律はできるだけ維持して(一部時価会計のルール変更はあるが)、不足する資本は国が注入する」というものだ。

大きな不況や市場混乱により金融機関全般のバランスシートが痛んだ時、政府が放置すると、金融機関はバランスシートを縮小することで、自己資本比率を維持しようとする。そうすると益々景気が悪化する。これを「景気循環増幅作用」というが、欧州の政策当局をこの危険性を避けようとしている。

一方日本では公的資金の投入にアレルギーが強いため、金融機関の会計ルールを緩和して、痛んだ資産にお化粧することで自己資本比率の悪化を防ごうとしているように見える。

私は「決済機能や信用創造機能を担う社会インフラとしての」金融機関は株式の保有を極力抑制するべきだと考えているが、その理由も株式を保有することで、景気後退期には過度に信用収縮を起こし、景気が拡大し株価が上昇すると過度に資産積み増しを図るという銀行のビヘイビアを増幅するからである。

金融機関の資産査定等のルールを緩和すると、目先は凌げてもやがて投資家が資産内容の健全性に疑問を感じるようになり、長期的にはマイナスとなることが明らかだ。「公的資金投入アレルギー」という潔癖性も、財政学的にはマイナス要素があることを識者やマスコミをもっとアピールするべきではないかと私は考えている。「廉潔」は個人の美徳だが、政治・経済面で美徳とは限らない。孫子は「廉潔は辱(はずか)しむるべし」と言った。これは今述べた話と少し主旨が違うが、敵将が「廉潔」にこだわりすぎるなら、辱めて相手の理性を失わせて勝利を導けという話だ。リーダーたるものは「廉潔」にこだわりすぎてはいけないという点では教訓になると思って敢えて引用した。

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個人の懐狙う野村とタタ

2008年12月02日 | 金融

今日内外の新聞を読んでいて、二つの面白い記事を眼にした。一つは日経新聞が報じていた野村證券の個人向け劣後債発行のニュースで、もう一つはファイナンシャルタイムズが報じていたインドのタタ自動車の個人向け預金の話だ。私は2つの記事を読んで今「企業は資本強化や金繰りの点からとうとう個人のフトコロを当てにしだした」という思いを強くした。

なじみの薄いタタ自動車の話から紹介しよう。タタ自動車はインド三番目の自動車会社で今年の初め英国のジャガーとランドローバーを買収した。買収資金は23億ドルで、同社は買収のために30億ドルを借りたが、そのリファイナンスに頭を抱えている。そこで同社は金利11%、最低預金額4百ドル(2万ルピー)で預金を一般大衆から集めることにした。出資法で預金の受入が銀行等に制限されている日本では奇異に見えるが、インドでは企業が固定金利預金を受け入れることが認められている。11%という金利はかなり魅力的に見えるが、タタ自動車の格付はムーディーズが先週金曜日に格下をしてB1だ。これは投資適格水準から4ノッチ下。インドの個人投資家はタタ自動車のリスクとリターンをどう評価するのだろうか?

野村證券の劣後債は正確には「期限前償還条項付無担保社債(劣後特約付)」で、クーポンは3.6%、期間8年だが3年後の2011年12月から期限前償還のオプションがついている(同社ホームページによる)。格付はJCRとR&IでA+の予定だ。

ホームページは発行額未定としているが、日経新聞によると3千億円だ。野村の場合はタタ自動車と違って、資金繰り目的ではなく、自己資本強化の目的だ。どれ位個人投資家の関心を集めることができるか興味深いところだ。というのは野村の株価は今6百円前半で配当利回りは5.4%程度だ。今が株式市場のボトムに近いと判断すると、野村の株を買う方が高いリターンが期待できそうだ。

3.6%の利回りは10年国債より2%以上高い水準だけに「株式投資は嫌だが、高いリターンが欲しい」という個人投資家にはアピールするかもしれない。いずれにしても、一度近所の野村證券の店をのぞいてみようかなと考えている。

それにしても世界の機関投資家が、金融機関等から追加出資を求められたり、相場で痛めつけられて、国債に逃避しているので、企業は個人のフトコロをダイレクトにあてにする時代になってきた。消費者はますます美味しい話と危ない話を見抜く眼が求められてきた。

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米国、粛々と景気後退

2008年12月02日 | 社会・経済

全米経済研究所は11月28日の会合で、米国が昨年12月から景気後退に入ったと宣言した。このニュースが流れた12月1日ダウは、680ポイント7.7%下落した。この二つのことはたまたま同じ日に起きたが、リセッション入りのニュースが、株価急落の大きな原因ではなさそうだ。米国の景気後退は市場参会者が皆認識していたことであり、ニュース性はない。

株価が急落した理由についてニューヨーク・タイムズはmore about profit-taking than the economy つまり「経済よりも利食い」で下げたと報じている。先週ダウは5日連続上昇していたので、ヘッジファンドなどにとっては絶好の売り場だったのだ。

止まない嵐がないように、回復しない不況もない。通常米国ではリセッションから半年程度で景気は反転に向かっている。今回のリセッションは通常より大きいだけに抜け出すには過去より時間がかかる。まだ暫く悪いニュースが続くが、市場がリセッション宣言を淡々と受け止めたことは頭に入れておいて良いだろう。

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