金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「風」は新しい成長エンジンになれるか?

2008年12月15日 | 社会・経済

12月20日付の週刊ダイヤモンドに「金融危機後の世界経済」という記事があり、その中でジョージ・ソロスが次のように述べていた。「ここまで続いたスーパーバブルにおける成長の原動力は米国の消費者でした。米国人は生産する以上に消費してきた・・・・しかしそのエンジンはもはや故障してしまった。別のエンジンが必要になったのです。私の考えではそれは結局エネルギー関連になるでしょう。」

再生可能で地球環境に優しく現実的な代替エネルギーということで注目を浴びているのは「風力発電」だ。風力発電は発電に適した風が吹く場所が限られる日本では注目度が低い。しかし世界的には代替エネルギー源として着目を浴びている。最近のエコノミスト誌にも特集が出ていた。ポイントを拾うと次のようなことだ。

  • 最初に「ウインドファーム」(風力発電所)がカリフォルニアに出現したのは1980年代初めの頃だ。その回転翼は直径15m程度で発電能力は数十キロワットだったが、現在では発電量は数十倍の1.5-2.5メガワットに向上している。回転翼の直径は100m規模に拡大している。
  • スタンフォード大学の研究によると全世界の潜在的な風力エネルギーは7万2千ギガワットで、全世界のエネルギー需要の5倍近い。
  • 風力発電コストは2007年にはキロワット当り10セントで、トン当たり30ドルのカーボンガス課税が行われると、風力発電は火力発電に対して価格競争力を持つ。
  • EUは2020年までにエネルギーの2割を再生可能エネルギーに切り替える目標を設定しているが、風力発電に依存するところが大きい。米国ではエネルギー省が2030年まで風力発電がエネルギー需要の2割に達するという計画を立てている。風力発電設備メーカーには1,2年分の注文が積みあがっている。

風力発電の新しい方向は海上型の風力発電だ。地上型に較べて海上型は建設コストが4割程度高いが、巨大な回転翼を設置できるので潜在的な成長性は高いと専門家は見ている。

繰り返しになるが、日本では風力発電に適した風が吹く建設適地は余り多くない~また回りの海も水深が深いので海上型のウインドファームの建設もコストがかかる~。このため風力発電への関心は余り高くない。だが発電設備メーカーとして三菱重工業などは注目を集めている。

2009年の大きなテーマの一つはクリーン・エネルギーになるだろう。日本の政府も少し目線を高くして、エネルギー問題に取り組むべきだろう。ジョージ・ソロスは「失業者を代替エネルギーや省エネルギー技術の開発などに活用することが世界恐慌から抜け出す道であると信じている」と結んでいた。

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金と信頼、同時に失った金融機関

2008年12月15日 | 社会・経済

先週土曜日奥多摩の宿屋でテレビを見ていたら、「元ナスダック会長が巨額の詐欺で逮捕」というニュースが流れた。この事件について詳しいことは取調べ中で、全体像はまだ見てこないが、巨大バブルがはじけた年の瀬に相応しいニュースだと思った。

バーナード・マドフという男が行った詐欺は、英語ではPonzi schemeと呼ばれている。1903年にイタリアから米国に移民してきたチャールズ・ポンジという男が始めて大掛かりなこの手の詐欺を行ったので、ポンジ・スキームという名前が付いている。日本語では「ねずみ講」的という説明だ。厳密にいうとねずみ講とは少し仕組みが違うが、要はマドフという男はかなり高いリターンを払うという約束で投資家から資金を預かり、実際に10年、20年という間そのリターンを払ってきた。ただし預かった資金の運用から生まれた成果ではなく、新しい投資家からの委託資金を利用してだが。

マドフは大学などに多額の寄付をしていることや紳士的なゴルファーとしてボカラトン(フロリダの高級リゾート地)などの上流社会の名士だった。またガツガツ自分からファンドの勧誘を行わなかったので、余計に投資家の信頼を得たという説明もニューヨーク・タイムズなどに出ていた。

この巨大詐欺事件が通常の詐欺事件と違う点は被害額が5兆円という規模の問題だけではない。まずナスダック元会長、有名な慈善家という表面的には「善人と見える男が手がけた犯罪」ということだ。次に「犯罪時点から発覚までの時間が非常に長い」という点だ。普通ポンジ・スキームは後継者が続かなくなり、比較的短い期間で破綻するといわれている。そして「ヘッジ・ファンドや国際的な金融機関など金融のプロが詐欺にあっている」点だ。金融機関の名前としてはBNPパリバ、HSBC、野村ホールディングスなどの名前が上がっている。他にファンズ・オブ・(ヘッジ)ファンズがかなり上がっている。

ここで最大の疑問は彼等金融のプロは「投資をする時にDue diligenceと呼ばれる詳細な調査をしなかったのか?」という疑問だ。またマドフのファンドから配当があった時、どのような運用手法でリターンが上げられたか分析しなかったのだろうか?という点だ。

個人の資産家が詐欺にかかったというのであれば「お気の毒様」と同情するべきだが、金融のプロがコロッと騙されているようでは、彼等の調査能力が根底から疑われてしまう。金融機関が失ったのは金だけでなく、彼等の調査姿勢に対する信頼なのだ。

ところでポンジ・スキームにしろねずみ講にしろ、バブルと共通する点がある。それは「後から参加してくる人のお金を当てにして投資を行う」点である。後から参加してくる人の数は無限ではないし、株や不動産にしろ無限に価格が上昇する訳ではない。だからポンジ・スキームはどこかで破綻し、バブルはどこかで崩壊せざるを得ない。違いがあるとすればポンジ・スキームの場合は中心となる仕掛け人がいるのに対し、バブルの場合は中心人物が特定しにくいことかもしれない。

ポンジにしろバブルにしろその背後には欲に眼がくらんだ投資家がいる。それにしても証券取引委員会等の監督官庁や学校法人や慈善団体の内部監査人などのチェック機関も全く機能しなかったのだろうか?

年の瀬に色々な問題を提起してくれる事件が発覚したものだ。

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