常識と思っていることは、時に固定観念に陥る。不況期には米国企業にはレイオフが当たり前だと考えるのも、下手をすると誤った固定観念なのかもしれない。ニューヨーク・タイムズにMore firms cut labor costs without layoffsという記事が出ていた。「より多くの企業がレイオフなしに労働費削減を行っている」という内容だ。
例えばデルやホンダは無給休暇を拡大しているし、モトローラは賃金カットで労働費削減を行っている。ネバダ・カジノズのように週4日勤務にしているところも増えている。確定拠出年金への会社拠出を一時的に抑えているところもある。
とはいうものの、レイオフが最大の人件費削減手段であることには変わりはない。調査会社のワトソン・ワイヤットによると、11月には26%の会社が来年レイオフを考えていたが、今月は23%に減っている。景気の見通しは悪くなっているのに、レイオフを考える先が減ったことは注目しておいて良いかもしれない。
レイオフよりも勤務時間削減等で対応することを考えている会社が増えているということは、従業員に対する温情からの対応ではない。レイオフをして中堅社員を失うことの損失が大きいと会社が考えているからだ。又一時的な賃金削減を従業員が受け入れるということはその方が中長期的に見て良いと判断しているからである。
ところで日本の労働市場で今問題になっていることは、派遣社員の契約打ち切りだろう。これについて大手商業新聞を見ると「政府にできることは限られている」という論調が多い。読者にこれをあたかも「常識」として押し付けるかの如くにだ。だがこれは日本の誤った固定観念に過ぎないかもしれない。例えば「同一労働・同一賃金」の思想が強いオランダなどでは、正社員と臨時社員の所得格差はそれ程大きくはない。つまり日本の派遣社員問題の背後には同一労働・同一賃金の思想がないことが横たわっている。
日本の新聞が大企業寄りの「見解」を述べるのは、彼等が広告主だからである。その上に乗っているだけの政府はまことに無責任といわざるを得ない。
失業問題についていうと中国では大学卒業者の失業問題や地方から出稼ぎに来た人達の失業問題が極めて重要な政治課題になっている。下手をすると第二の天安門事件を引き起こす可能性があるからだ。
アメリカのレイオフから話が飛んでしまったが、今世界は失業問題と真剣に向き合う時に差し掛かっている。常識や固定観念を捨ててモノゴトを直視する必要があるだろう。