財務相が昨日(1月12日)発表した速報によると、11月の経常収支は前年同月比85.5%の減の1,385億円の黒字となった。経常収支の大幅減の原因は貿易収支の赤字だ。11月単月の赤字は5,851億円で、昨年通年では、1963年以降50年ぶりに貿易赤字になると予想される。
エコノミスト誌は「80年代と90年代日本の巨額の貿易黒字は、欧米の保護貿易主義者の大衆受けする攻撃材料だったが不均衡は持続しない」と述べる。貿易収支が赤字に転落しても、巨額の対外投資からの配当により経常黒字は暫く続きそうだ。しかしたいGDP比で見ると、2007年には5%あった経常黒字は昨年は2%まで落ちている。
エコノミスト誌は海外の金利低下等で経常黒字も数年の内に消える可能性があるが、それは良いことなのか悪いことなのか?と問題提起する。
同誌は円高の進行と高い法人税により、メーカーは生産拠点の海外移転を進め、例えば自動車業界では2014年までに日本の自動車メーカーは生産高の76%を海外シフトするだろういうJPモルガンの予測を紹介している。JPモルガンの菅野氏の予想では2015年までに日本の経常収支は赤字になると予想しているが、反対意見もある。世界の経済成長と日本の輸出産業は菅野氏の予想より強いというのがその論拠だ。
だが構造的には日本の経常収支は縮小する方向に向いている。貯蓄・財政赤字・経常収支の間には「貯蓄超過は財政赤字と経常収支に等しい」という関係が成り立っているので、貯蓄が減少したり、財政赤字が拡大すると経常収支は縮小し赤字に転落する可能性があるのだ。
現在のところ日本では家計の貯蓄減は企業の貯蓄増でカバーされているが、これがいつまでも持続するという保証はない。財政赤字の拡大も考えるとこのまま行くと時期はさておき日本の経常収支は赤字に転じると予想される訳だ。
エコノミスト誌は経常収支の縮小が「国内消費の拡大や投資による貯蓄減」によるものだったら、日本とそれ以外の国にとって良いニュースだが、「単に輸出の低迷やエネルギー高によるもの」だったらそれは日本とそれ以外の国にとって悪いニュースだと結んでいる。
ところで経常収支が赤字に転落すると円安になり、輸出競争力が回復して、貿易収支がプラスになる・・・・というのが経済学の理屈だろうが、必ずしもそうはいかないのが為替の世界だ。
2009年頃まで円安が続いた主な理由は、先安感のあった円を借りて高金利通貨に投資するというキャリートレードにあったいわれている。そして今はユーロがキャリートレードに使われている。為替が必ずしも経常収支を反映しないとすると、短期的には経常収支の縮小が円安ドライバーにはならない可能性もあるだろう。