自分の危機が少し遠ざかると他人の危機的状態にあれこれ口をはさみたくなるのが人間の性(さが)というものだろうか?S&Pがフランスなど欧州諸国の格付を発表した2日後のニューヨーク・タイムズは「欧州諸国が国のバランスシートの改善だけに熱心で競争力を高めようとしないのは危機対策の処方として間違っている」という論評を載せていた。
ポイントは以下のとおり。
- 大部分の欧州諸国は、市場が識別した高債務・財政赤字という大きな問題に対処するため、ドイツのメルケル首相が処方した財政緊縮策を受け入れている。
- ドイツはかって危機に陥った時、危機をバネとして新技術への投資と労働市場の柔軟化により経済を再生したが、今の欧州の指導者達からは危機を活かすという声はほとんど聞こえてこない。
- 今回の格付見直しは改めて欧州圏内の二つの経済~豊かな北と浪費的な南~のギャップの問題を浮き彫りにした。ギャップの問題は北(欧州の核)と南(周辺国)の競争力の拡散の問題である。
- S&Pの役員は電話会議で「政治家達は危機に対する処方箋を間違ってる。総ての国~特に周辺国~は過大な債務を削減するために緊縮策を取ろうとしているが、ユーロ危機の根源的な問題は南北の競争力の差の拡大である」と述べた。
この論評が主張するところは、債務と財政赤字削減という緊縮財政では、経済成長が見込めず欧州の危機は解決しない。ドイツがやったように新技術と労働市場の改革に取り組むべきだというものだ。
だが前にも述べたことがあるが、ギリシャ等の南欧諸国にとってそれは容易ではない。何故ならドイツには「モノ作り」の伝統や基盤があった。だから新技術への投資が活きたのであり、労働市場を改革することも可能だった。産業基盤が農業や観光あるいは建設等に偏り、製造業の基盤が弱い南欧周辺国にとって「生産性を向上させる」という処方箋も結構ハードルが高そうだ。
だが厳しくても受け入れざるを得ないだろう。最近は怪我や病気で入院しても、病院側は患者に早くリハビリで動くことを指導するそうだ。寝付くと筋肉が退化し回復は遅れるという。