今日(5月13日)の日経新聞朝刊に載っていた三菱UFJグループが、傘下の三菱UFJ信託銀行の法人融資を三菱東京UFJ銀行に集約するというニュースだが、記事は主に三菱UFJグループの業務効率化の観点から集約が進められると論じていた。
法人融資が伸び悩む中、窓口を一本化することは効率化につながる。しかし資産運用部門と法人融資部門を分離する意味はそれだけではない。
いやもっと重要なことは、年金資金等顧客の資産を運用する部門と銀行の自己勘定で融資を行う部門が独立していないと、受託者責任を果たせない場合がでる可能性があるということだ。
たとえば業績不振に陥った上場会社に銀行が融資をする一方、年金資産で株式投資を行っているとしよう。受託者責任の観点からは、業績回復が見込めない会社の株はさっさと売り払うべきだし、インデックス運用の一部として当該会社の株を持っている場合は、経営陣に対して、業績改善策を求めたり、場合によっては株主総会における会社提案に対してノーをいう必要がある。しかし融資というしがらみがあると、これらの行動を取るのに二の足を踏む場合もあるだろう。逆に融資取引を通じて得た情報で株の売買を行うとインサイダー取引になってしまう。大手金融機関は「インサイダー取引」については十分注意しているはずだが、「李下に冠を正さず」の方が良いことは間違いない。
よって「受託者責任」を遂行する観点から融資部門と顧客の資産を運用する部門は分離することが好ましいのである。
この受託者責任という言葉は、英米発のFiduciary Dutyフィデュ―シャリー・デューティーという言葉の訳語として日本に導入された。
ただし最近では金融庁は「真に顧客本位の業務運営」と定義を見直し、金融行政の最重要施策と位置付けている。
不良債権の償却と貸出難に呻吟した日本の銀行が活路を見出してきたのが手数料の獲得。手数料は投資信託や一時払い終身保険の販売で一般消費者から銀行に流れ込んできた。極論をすると一般消費者の出費で銀行が助かった訳だ。
もし消費者も投資信託等金融商品への投資で資産を増やすことができたならば、win-winの関係といえるのだが、銀行が販売した投資信託等で資産形成に成功した消費者は少ないのではないだろうか?何故かというとそれは金融機関が「真に顧客本位の業務運営を行っていなかった」からである。
もう少し突っ込んで言うなら、資産運用会社である信託部門と運用商品を販売する銀行部門は独立していることが望ましい。そして販売部門は自社商品をラインアップするだけでなく、本当に顧客のためになる商品を販売することが求められるのである。
マスコミが受託者責任問題の木鐸であろうとするならば、三菱UFJの融資業務統合についてもこのような角度からの切り込みが欲しかったと感じた次第だ。