金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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高年齢者再雇用安定法を前にして

2006年03月08日 | 社会・経済

今年(平成18年)4月から改正高年齢者雇用安定法が施行される。→ご関心のある方は厚生労働省のHP http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/
私の会社でも「継続雇用制度を導入」することにして最近勤務員向け説明会を行なった。説明会では余り質問はなかった様だが、高齢者雇用の問題は一勤労者として又会社の人事面の責任者としてかなり関心の高い問題である。この機会に海外の状況など含めて少し勉強してみることにした。それにしても60歳位で高齢者と呼ぶにはいささか抵抗を感じる。高齢者という言葉自体がある種の弱者のイメージを伴う気がするがこれも私自身が年を取ったせいだろうか?

いきなり余談になるが先月苗場にスキーに行った時、リフト券を買う時55歳以上はシニア割引が使えるということが分かって嬉しいやら寂しいやら複雑な気持ちになった。(ただしこの日は割引適用のない半日券を買ったので生まれて初めてのシニア割引は使わなかったが) その翌日は武尊へ行き、スキー場のリフト終点からシールを着けて前武尊に登り、新雪の中に飛び込んでみた。寒風に舞う雪煙の中、太股を没する新雪を滑り降る自分を見てシニアなどと呼ばれるのは少し早いのではないか・・・などと思ったりした。

さて最近エコノミスト誌は高齢者雇用の問題をTurning boomers into boomerangsという記事で論じているが、高齢者雇用にかかわる問題の本質が浮かび上がる良い記事だと思う。ポイントを紹介してみたい。それにしてもベビーブーマーのブーマーとブーメランを掛け言葉にした小じゃれた表題をつけたものだ。

  • 富裕国の労働力が老齢化している。EUでは50歳から64歳の労働者が今後20年間の間に25%増加するが20歳から29歳の労働力は20%減少する。日本は高齢層の割合が世界一高く65歳以上の人口が既に2割を超えている。
  • 大部分の社会は大体65歳位で退職する様に設計されているので、企業にとって知的資源の管理という問題が大きくなってきている。IBMの人事部の調査は昨年次の様に結論付けている。「ベビーブーマー世代が退職する時、多くの会社は長期勤続者の経験の価値が去り、不十分な才能が穴埋めのために残されていることに気付くだろうがそれは遅すぎる」 また専門性の欠如に直面する企業もある。例えば航空宇宙産業、国防産業では幾つかの企業で5年以内に退職適格年齢に到達する従業員が4割も存在する。
  • 詳細に見れば幾つかの企業が高齢者に適した職場環境作りを始めているが全体としては例外的である。たとえば米国イリノイ州の産業機械メーカー・ディア社は4万6千人の従業員の内約35%が50歳以上で、70歳代の従業員も相当数働いている。同社の人事部によれば「会社として高齢者を優遇するポリシーはないが、永年勤続を希望する従業員を採用することを試みている。そしてそれを可能にするツールがフレキシブルな勤務形態と在宅勤務等である。また同社は人間工学に多くの時間を割き、仕事の疲労感を削減することで高齢者に働き易くしている」ということだ。退職者のネットワーク構築に力を入れている企業もある。IBMは特別なプロジェクトのために退職者を再雇用するためこのネットワークを使っている。
  • これらは例外的であり昨年のデロイト社の調査によれば世界的な企業1,400社の内4分の3が3年から5年の間に労働力の不足を予測しているにもかかわらず、高齢者をもって穴埋めを考えている企業はほとんどない。
  • その理由の一部は、発展途上国から安い労働力が大量に供給されていることにある。実際大量の仕事が中国やインドにアウトソースされている。また幾つかの国、たとえばオーストラリアでは熟練労働者を受け入れるため、移民政策を緩和している。また他の国では機械と自動化投資を行い、労働力への需要の高まりを避けようとしている。
  • 一方高齢労働者は老後資金の不安から長く働こうとするという調査がある。ハリス・ウオール・ストリート・ジャーナルの調査によれば54歳以上の米国人の39%は十分な老後資金が得られるかどうか疑問を持っている。IBM、GM等の企業が退職給付の削減を発表しているからだ。米国は差別禁止の観点から強制的な退職年齢がないので、ウオートン・ビジネス・スクールのカペリ教授は2000年に153百万人だった勤労者は2010年には159百万人に増加すると予測している。
  • もっともこの様な事態が起きれば、克服しなければならない多くの問題がある。多くの欧州諸国で最大の問題の一つは給与である。大手人材斡旋会社アデコによれば、フランスとドイツでは50~60歳の層が25~30歳の層より6,7割高い給与を得ている。しかし英国では二つの層にそれほど差はない。これは英国の方がドイツより高齢者の雇用が多い一つの理由である。
  • 欧州大陸と日本の企業は英米の競争相手より年功序列制度から年齢を切り離すことが難しいことに気付いてきている。米国の例だが、スーパーマーケット最大手ウオールマートでは新卒の社員が母親の年齢の女性労働者を監督している。もし高齢労働者が職場に留まろうと思えば、逆転した組織のヒエラルヒーを受け入れる必要がある。
  • 政府は老齢者雇用の問題について大きな役割を担っている。スイスは受給者が国民年金額を最大年額5千フラン(3,825ドル)増加させるため、強制的退職年齢を最大5年間勤務できる法律を制定している。このことでスイスでは55~64歳の人の6割が働き、イタリアやベルギーでは同年齢層の3割しか働いていないことが説明できる。一方で幾つかの国で税制が老齢勤労者にマイナスに作用している。例えば米国では退職者が月に40時間以上再雇用されたり働いたりした場合しばしば年金の支給が停止される。マツダの様な日本企業は退職者を1年契約で再雇用している。
  • 老齢労働者を助ける目的の法律が逆作用する可能性がある。米国労働法の中の年齢による差別禁止条項は、総ての従業員が医療保険等の面~米国の医療保険は任意部分が大きい~で等しい利益を享受することを求めるので、企業側は老齢者の再雇用を消極的にさせる。(老齢者の医療保険は高いので)
  • たとえ法律が変わっても、老齢労働者は職場の敵対的な態度を克服しなければならない。多くの人々は老齢者はモチベーションが低く、より多くの病欠を取り、コストがかかると想像する。しかし実際には幾つかの研究が40歳以上の方が病欠が少なく、モチベーションも生産性も高いということを示している。
  • 経営者にとって出来ることは勤務をもっとフレキシブルにすることである。これは女性労働者や若年労働者が求めていると言うものと調和する。フレキシビリティは総ての世代に訴求力がある。
  • 多くの企業が「労働資源を多様化」を深めている。これは部分的には一部の国で法律の要請があることによるが、又企業がプラスになると信じているからでもある。多様化ということは主に女性と民族的少数者を意味するが、その様な仕組みは老齢勤労者の助けにもなる。たとえば母親の職場復帰を促進する様なフレキシブルな勤務スケジュールは老齢勤労者の在職を促進する。
  • しかし長期的には企業は真剣に従業員と彼等の退職プランについて話をする必要がある。多くの企業は労働者の人口構成がどの様に変わっていくかという特徴を捕らえていなく、何時どれだけの退職者がでるかほとんど分かっていない。デロイト会計事務所の人事部長によれば多くの企業は上級職にいる勤務員に「より少ない仕事とより少ない報酬」について話をすることに当惑している。また米国では雇用主側は往々にして退職プランについて話をすると年齢による差別条項に抵触して訴訟されることを恐れている。
  • これは残念なことである。メリル・リンチは昨年レポートの中で「ベビー・ブーマーは基本的には退職を再発明する」と述べている。そのレポートは「勤務」と「レジャー」のサイクル(つまり時々働き、時々遊ぶというスタイル)は65歳を越えるだろうと言う。
  • 追加的に金を稼ぐことに多くの焦点があたっているが、より多くの人は「精神的な刺激と挑戦」のために働くだろうと言う。米国ビジネスマン協会の評議会は「退職後の仕事はかって矛盾話法と考えられていたが今やそれは現実である」と評決した。

私がこの記事を読んでまず思い出したのは中国は三国時代の魏の曹操の息子曹植(そうち)が詠んだ七歩詩である。すなわち・・・・

豆を煮るに豆がらを燃やせば

豆は釜中にありて泣く

本これ同根に生ぜしに

相煮ることなんぞ太(はなはだ)急なる

これは曹操の死後、亡き曹操の寵愛を受けていた曹植を憎んだ長兄の曹否が「七歩歩む内に詩を作れ」と命じた時、曹植が作ったもの。つまり豆と豆がらの様な兄弟なのにどうしてあなたは辛く当たるのですか?という主旨である。

余談が長くなったが、恐らく日本の会社の然るべき立場にいた人は長かった不況期の間に一度や二度は肩たたき的なことをした経験があると思う。私もまたその例外ではなく多少この手の経験があるがその時もこの詩を思い出していた。

今度又ある程度選択的な再雇用制度を設けると又「再雇用する」人と「しない人」が出るのか?などと複雑な思いがよぎる。又会社側にいる私だって所詮豆がら、そう遠からず豆として煮られる立場になる・・・という少し悲しい気持ちもよぎる。

エコノミスト誌が述べる様に「退職後も給与はさて置き働きたい時に働く」というようなフレキシブルな制度が日本でも作ることが出来るだろうか?これは業種にもよるだろう。長い経験が重要な製造業では経験豊富な熟練者の技が要求される余地が多いと思うが、金融業に関しては私は余り楽観的ではない。しかし金融業に長年従事したものが「客観的判断力」とか「洞察力」あるいは「事実に即した記述能力」等を涵養しているとするならば、他の分野でも若い人のメンター(Mentor 助言者)として使える余地はあるのかもしれないとは思う。もっとも少し前から金融機関でも財産コンサルタント的な仕事にはOBを活用している。主に老齢層の資産運用相談などを行なっている様だ。これも豆と豆がらの関係に似ているが、これは豆がらも生かす方法である。いずれにせよこれからは高齢者同士でサービスを提供できるものはサービスを提供し、金を払えるものは金を払ってサービスを受けるといった社会が出現してくるかもしれない。

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2007-11-05 16:27:20
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