金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

マゾじゃないけど、私の税金を上げて

2011年08月31日 | 政治

ニューヨーク・タイムズに欧州の富豪層の間で、富裕層への課税を増やそうという声が高まっているという記事がでていた。最初に紹介されていたのは、フランスの広告会社の会長モーリス・レヴィ氏がFTに書いた投稿の話。これは8月29日にFTに投稿されたI am not a masochist but the rich must pay more「私はマゾヒストじゃないけれど富裕層はもっと税金を払わなければならない」という投稿で、レヴィ氏は「財政赤字削減のための公的支出削減は、ミドルクラスや低所得層の負担が大きい。我々の社会でもっとも恵まれた階層が国の負担をより多く担うというのがフェアであると思われる。私は富裕層に追加的な課税を求める。税金は好きではないが、今はそれが重要なことであり正しいことである」と述べる。

レヴィ氏の意見は、8月中頃にアメリカのバフェット氏が発表した「富裕層を優遇することを止めて、彼等の所得税率を引き上げ財政赤字を減らそう」という意見と呼応するものだが、レヴィ氏はバフェット氏と話をした訳ではないと述べている。

しかしバフェット氏の提案が欧州のエリート層の間で「倹約政策が富裕層を優遇しながら、低所得層には懲罰的になっているのではないか」という議論を引き起こしたことは事実だ。

たとえばフェラーリの会長モンテゼローロは「私は裕福だ。公平と連帯のためにより多くの税金を払うつもりだ」と新聞で述べている。

ただし欧州諸国の政府の対応はマチマチだが、フランスではサルコジ大統領が先週最富裕層への税率を3%引き上げることを発表した。これは年間288百万ドルの税収増につながるということだ。

288百万ドルというと216億円程度。少ない金額ではないが、財政赤字の削減と意味では経済的な効果より、社会保障の削減等で不満を抱える低所得層の緩和剤的効果の方が大きいかもしれない。

欧州大陸に較べて英国では富裕層から増税に賛成するという声はあがっていない。英国は富裕層の所得税率が高く、年収15万ポンド(19百万円程度)以上の税率は50%だ。日本の経団連に相当する英国産業連盟は引き続き50%税率の廃止を求めていくと述べている。

ニューヨーク・タイムズは「会計事務所KPMGによると英国と日本はG8の中でもっとも税率が高い国だ」と結んでいた。

さて日本では富裕層自らがGDPの2倍まで膨らんだ国の借金を減らすため自分の税金を増やしてくれなどという動きは目にしたことがない。その理由はつぎの内どれだろうか?

・日本は既に所得税率が極めて高いので、これ以上税率を引き上げると事業を拡大して稼ぎを増やそうというインセンティブがなくなると考えている。

・スペイン、ギリシアなどで起きている路上抗議運動など社会的騒乱が日本ではないので、日本の失業者や低所得層は不満をもっているとは想像がつかない。

・国や社会が困難に面している時、応分以上の負担を背負うことは、noblese obligeであるという「恵まれたものの義務感」が欠如している。

・無責任な政治家が述べる「景気が良くなれば財政も改善する」という空論を信じている。

・国や社会の行く末をまともに憂いていない。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ワシントンは野田首相をどう... | トップ | 晩夏暮情 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

政治」カテゴリの最新記事