金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ザイルを解く時

2005年05月14日 | 資格・転職・就職

昨日社長から「今期いっぱいで役員をポストを後輩に譲り関係会社に回ってくれ」という話があった。

時節柄かかることも想像の範囲なので驚く程のことはなかったが、社長の話を聞きながら、僕は若い時に初冬の剣尾根で「ザイルを解いた時」のことを思い出していた・・・・・

初冬の剣尾根というのは垂直の岩、緩いスラブ(一枚岩)につもる不安定な雪で代表されるチャレンジングなルートだ。「初冬に剣尾根を登る」ということは僕の山屋としての大きな目標だったが学生時代に挑戦する機会はなかった。チャンスは会社員になって~今ではやや記憶が曖昧なのだが~恐らく3年目の初冬巡ってきた。僕は山岳部の同級生I君と20kg近い荷物を担ぎ、オーバーハンに鐙をかけ替えながら垂壁で立ちはだかる剣尾根を越えていった。足の下数百メートルに広がる透明な空間に心の高ぶりを覚えたものだ。緩いスラブは薄く積もった、手の施しようのない新雪で僕を手厳しく歓迎してくれた・・・ビバークを伴う長い長い登攀の後、短い冬の日が暮れる前僕らは漸く剣岳主稜線に至りそこでザイルを解いた。そのザイルは2日間の僕らの命綱であり、そして長い間青春の一つの目標と僕を結んでいた心の絆だった。

その時僕の胸の中に「恐らくもうこれ以上厳しい登攀は今後しないだろう。これが僕のクライマー人生のピークなのだ。」という思いが募った。私には既に幼い長女がいて「家族のプライオリティ」が山を押しのけようとしていた・・・・

月日が立ち子供達が独立した今、僕は又山を歩いている。時にはザイルを使って簡単な沢登をすることもある。しかしあの時剣尾根で結んだ「厳しいザイル」を再び結ぶことはなかったし、今後もないだろう。山は僕の中で確実に変貌しそして新たな形で根付いている。

今また組織という人の世の岩壁を攀じるザイルを解き、身を縛る岩登り道具も降ろす時が来たようだ・・・と思った時、軽い寂寥感とある種の安堵の気持ちが僕の心をよぎった。山登りも会社人生も一度はその命を賭けたザイルを解かねばならない時がある。それは例えヒマラヤの絶頂を極めるとも会社の頂点を極めるとも限りある命を持つ人の宿命である・・と考えた時僕はフッと心が軽くなるような気がして社長室を出ていた。

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ヘッジファンド、風雲急を告げる

2005年05月13日 | 金融

平成17513

GM、フォードの格下を一つの起因としてヘッジファンドの雲行きが危くなったことが、欧米のマスコミで大きく取り上げだされた。(無論その前からエコノミスト誌等は警告を発していたが)

特に権威がありかつ以前からヘッジファンドに警告を発していたエコノミスト誌が具体的に懸念を述べた影響は大きいだろう。

これによりヘッジファンドのみならず、株式・クレジットデリバティブ市場等も相当影響を受ける可能性がある。

取りあえずエコノミスト誌とファイナンシャルタイムズ紙に載った米国証券取引委員会ドナルドソン委員長のコメントを簡単に紹介しよう。

エコノミスト誌(05/05/12)~意訳

ヘッジファンドは激しく打ちのめされつつある。市場、規制当局そして公衆の意見が揃っている。後は投資家の信任が失われるだけである。市場が一番厳しい。ヘッジファンドはGMとフォードの債券を買い持ち、株式を売り持ちしていたが、市場はヘッジファンドの目論見と逆に動いた。GMの株を億万長者のカーコリアン氏が買うというニュースで株価は急上昇、一方格下で債券は急落した。

今週クレジット・デリバティブスとストラクチャード・ファイナンスの他の戦略で問題が危機に直面している。

CDOCollateralized Debt Obligations)が、プールされたクレジットの質の劣化のみならず、プール内の企業のリスクを相殺すると考えられていた相関関係が破綻したことで打ちのめされている。ヘッジファンドはこのCDOの中の一番リスクの高い(つまり最劣後の)エクイティ部分を取り、それを担保に融資を受けている。

投資適格のデフォルトスワップのスプレッドとハイイールド債券指数とも急激に上昇している。

S&Pは全体的には極少数のCDOを格下するか、ネガティブ・ウオッチに置くだろうと予想している。欧州の745CDOの内、GM・フォードを含むものは35で、米国のCDO265の内GM・フォードのリスクを取っているものはたった一つである。

しかしこれだけで幾つかのヘッジファンドが重大な問題を抱え、それらと取引している投資銀行に懸念ありという噂に火をつけるに十分だった。

多くのヘッジファンドにとって苦しい時期が訪れている。ヘネシー社の複合ヘッジファンド指数によれば~最低ヘッジファンド業界の半分はカバーしている~4月に指数は1.9%下落している。

リターンの振れが予想される。誰もLTCM危機の再来を示唆していないが、市場の大混乱は重要なことである。

ヘッジファンドは急拡大するデリバティブ市場に最初のストレス・テストを提供しているし、リスク・テーカーになっている。投資銀行はヘッジファンドをある種の自己ポジションのリスクヘッジにヘッジファンドを使っている。これにより金融市場が円滑に回っている側面があるが、将来これが困難になる可能性がある。バークレーズ・キャピタルによれば「合成的CDOの発行は漸減するだろう」と述べている。

ファイナンシャルタイムズ紙(05/05/12

米証券取引委員会のドナルドソン委員長は「市場リターンを凌駕するというヘッジファンドの目論見は大失敗に終わる可能性がある」と述べた。同委員長の発言は市場に幾つかのヘッジファンドがクレジットデリバティブ関連の複雑な取引で大きな損失を出したのではないかという懸念が走ったことをフォローしている。

GM/フォードの信用悪化に伴う市場の混乱を受けて、当局は今週ヘッジファンドの活動について詳細な調査を行っている。

バークレーズ・キャピタルは木曜日に、市場の流動性が急激に低下しているので、多くの長期的な投資家はリスクの引き受けについて一層神経質になっている。その結果ヘッジファンドと銀行の自己勘定部門の取引が太宗を占めている。バークレーズ・キャピタルによれば、3月には全体の取引の25%であったヘッジファンド・銀行自己勘定取引が最近では40%を占めている。ヘッジファンドは自己のポジションを守るためクレジットプロテクションを買おうとするので、クレジット・デフォルト・スワップのスプレッドが急拡大している。またクレジット・デフォルト・スワップ取引が急増している。

バークレーズは「流動性の欠如は続きそれがオーバーシュートとリスク回避傾向を高める。そしてこれは広い範囲の資産クラスに影響を及ぼすだろう」と言う。

1998年のLTCMの崩壊(正確にはnear-collapse)以来、ヘッジファンドの活動に対する懸念から規制強化が要求されてきた。証券取引委員会は昨年15顧客以上の顧客を持つヘッジファンドは証券取引委員会に登録すべしと規制を変更した。ただし規制強化については証券取引委員会の役員の中でも意見が分かれた。

規制強化反対派(例えば連銀のグリーンスパン議長を含めて)は、ヘッジファンドは市場に流動性を与え、他の投資家が取りたがらないようなリスクを吸収していると信じている。

グリーンスパン議長は先週「このようなヘッジファンドの市場における効果は当局の規制から自由であることで強化されている」と述べた。

しかしながらグリーンスパン議長は投資家がヘッジファンドから逃げ出すというリスクやヘッジファンドがハイレバレッジな取引で巨額の損失を出す可能性を含む正当な懸念について認識していることを示した。

                                                                                                                              以上

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(書評)企業福祉の終焉

2005年05月12日 | 社会・経済

「企業福祉の終焉」~格差の時代にどう対応するべきか 橘木 俊詔著 中公新書 720円

端的に言ってこれは良い本である。私が新書版クラスの経済関係の本で良い本と考えるのは以下のような本である。

  • 著者の本を書いた目的ないし結論が明確であり、結論に具体的実現可能性がある。
  • 結論に至るデータの収集と分析が客観的・科学的でありかつその説明が過度に難解でない。
  • 本全体を通じて、無駄な繰り返しが少なく充実している。

「企業福祉の終焉」はほぼこの条件を満たしていると言えよう。

著者の結論はこうだ。

企業福祉には「法定福利厚生」(公的年金、医療保険、雇用保険)費の支払と法定外福利(退職金、社宅、保養所等)費があるが、法定外福利に期待されていたベネフィット(例えば従業員の定着等)は減少している。

よって法定外福利費(著者の用語は「非法定福利費」)は廃止し、賃金等に振り替えて良い。

法定福利費については保険料方式ではなく税方式(具体例としては「累進消費税」~高額商品には高税率、一般商品については低税率を課す~)を採用するべきだ。

 

この結論については概ね賛成である。概ねというのは以下の点に若干の問題を感じるからである。

  • 退職金(含む企業年金)以外の法定外福利については、大部分の企業において減少傾向であり今後も削減・廃止が続くだろう。この本はかかる企業側の「理論的支柱」になりうる。ただし現在のような経済・雇用環境下、現在の法定外福利費が全額給与に振り替わることは期待できず、従業員側から見ると「実質的な減収」につながることが多いと考えられる。
  • 退職金(含む企業年金)は、明確に「賃金の後払い」であるので、これをその都度清算するとすれば「賃金に上乗せ」するか「確定拠出年金」化しなければならない。「賃金に上乗せ」する場合は、税金の問題と従業員個人の資産運用能力~前払退職金の一部老後資金として積み立てることを前提~と運用効率の問題がある。
  • 「確定拠出年金」の場合税の問題はクリアされるが、個人の運用能力と運用効率の問題は残る。一般的にいって企業年金~確定給付企業年金~制度で、多額の資産を運用の専門家が集合的に運用する方が、効率的でリスクが少ないといえる。
  • なお確定拠出企業年金の本場米国でも、一時は年金市場を席巻するかと思われた確定拠出年金だが、落ち着くところに落ち着き現在は確定拠出・確定給付が拮抗している状況であろう。(つまりモビリティの高い業界・職種では確定拠出が選好され、長期勤続が望まれる業種・職種では確定給付が選好される)

といったところが一読したところの問題点ではあるが、全体としては著者の意見に大いに触発されるところがある。

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ヘッジファンドへの警戒心高まる

2005年05月12日 | 金融

平成17512

本日(512日)の日経新聞朝刊に「ヘッジファンド米市場が警戒」という記事が出ているので若干詳しい分析をしよう。

まず日経新聞は「10日のニューヨーク市場ではヘッジファンドがGMの社債や株の投資で巨額の損失を出したといううわさが流れた」のくだりである。これについては事実ウオール・ストリート紙・ファイナンシャルタイムズ紙等にそのような記事が出ている。

内容はほぼ同じなのでファイナンシャルタイムズ紙から関連するところを引用する。

多くのヘッジファンドは3月のGMの減益見通し発表の後、GMの債券は「売られ過ぎ」(つまり割安)と信じて、「GMの債券買い・GMの株式売り」のポジションを作った。

しかし先週水曜日、億万長者のカーク・カーコリアン氏がGMにテンダー・オファーをかけるというニュースが流れ、GMの株価は18%跳ね上がった。木曜日にはS&PGMの債券を非投資適格に格下したので、債券価格は急落した。このためGM株式を空売りしているヘッジファンドは追証差し入れに苦労するのではないかという懸念を投資家が持ち、(証券貸出を行っている)投資銀行(=証券会社)の株式が売り込まれたのである。例えばドイチェ銀行の株価は3%、JP.モルガンチェースは2.4%下落。また上場しているファンドオブファンズの大手マン社の株も売り込まれている。一方質への逃避ということで米国債は上昇(イールドベースで3.6BP)している。

ファイナンシャルタイムズ紙によれば、ヘッジファンドにとって4月はLTCMが崩壊した1998年以来、最悪の月である。ヘッジファンドの総ての戦略をトレースしているヘネシー・ヘッジファンド指数によれば、4月一月でヘッジファンド指数は1.75%下落、前年同月比で1.62%下落している。

なおヘッジファンド戦略の中で特に悪いのは、転換社債アービトラージである。

ゴールドマンの転換社債アービトラージファンド指数によれば、4月単月で同戦略は-3.5%、年初来で-7.1%のパフォーマンスになっている。ゴールドマンによれば「この4月は過去15年の中で最悪」ということだ。

なお現在のところ寡聞にして記事は目にしていないが、原油先物取引にベットしているヘッジファンドも原油価格低下により大きな損失を蒙る可能性があるのではないか?と私個人的には観測している。

いずれにしろヘッジファンドの状況については注意が必要な時だろう。

                                                                                                                              以上

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人民元の切上げはいつなのか?

2005年05月10日 | 金融

昨日米国のスノー財務長官がハートフォードで実業界のリーダーを前にした演説で「中国はまさに通貨制度を見直す時だ」と述べた。これは米議会の「対中国強攻策を取れ」という圧力に対する対応とも言える。

過去2年間ブッシュ政権は中国に元のドル・ペグ制度を緩和する様に求めてきており、中国もより柔軟な通貨制度を導入する意図はあるが、それよりも国内金融制度の改革が優先すると述べている。

そこで何故中国は国内金融制度の改革を優先する必要があるのか?ということとその可能性と時期は何時なのか?ということについて私見を述べたい。

国内金融制度の改革とはより具体的には4大銀行を中心とする大手銀行の不良債権の処理である。

現在中国政府は4大銀行の内、中国銀行と中国建設銀行については不良債権処理策の一環として各々225億ドル、中国工商銀行に150億ドルのドル資産(米国債券が中心と思われる)を外為勘定から贈与している。また今後中国商工銀行と中国農業銀行の救済に引き続き外貨準備を使う予定と言われている。

従って不良債権処理の前に人民元切上げにより保有しているドル資産価値が下落すると4大銀行救済策に齟齬をきたすと考えられる。また不良債権処理前に人民元の変動相場制移行が起きると人民元金利の上昇が予想され、これは不良債権を抱える銀行にとって大きな痛手となる。従って人民元の切上げまたは変動相場制への移行の前に不良債権処理を進める必要があると中国政府が考えていると思われる。

ところで4月28日のファイナンシャルタイムズ紙によれば、S&Pは中国工商銀行と農業銀行の資本強化のために、1,900億ドルの資本注入が必要だろうという見解を示した。この金額は既に中国政府が投入している600億ドルに比べて相当大きい金額である。

また1,900億ドルという数字は現在の中国の外貨準備高とほぼ同額である。つまり中国は外貨準備全額を二つの銀行の救済のため投入する必要があるということだ。

中国政府の意図は4大銀行を上場して資本増強を行うことであり、中国銀行と建設銀行の上場を先行させる予定であるが、色々な障害があるようだ。

中でも大きな問題は、ROAの低さである。S&Pによれば貸倒引当前のROAは1.2%と低く外国人投資家にとって魅力のないものとなっている。

ところが銀行の改革が遅れると、中国の銀行の貸出は現在のまま、鉄鋼・セメント・自動車等の限られた基幹産業向けの貸出が持続することになる。これらの基幹産業は既に過剰設備を抱えてかつ生産性も低いので、追加貸出を行っても不良債権がますます増加するという悪循環に陥る。

またドル・ペグ制をとっているため、引締政策を取ろうと思っても、金利を引き上げると必要以上に外貨が流入するという問題があり、中国政府は意図的に低金利政策をとっている。これが金利政策の柔軟性を失わせている。

以上のようなことが中国の金融政策上の問題点であるが、まとめて考えると人民元がより柔軟な為替制度に移行する時期は4大銀行の救済策~更に言えば最大の問題である工商銀行の救済策が判然とする時が一つの目安になるのではないかと考えている。

                                               以上

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