昨日米国のスノー財務長官がハートフォードで実業界のリーダーを前にした演説で「中国はまさに通貨制度を見直す時だ」と述べた。これは米議会の「対中国強攻策を取れ」という圧力に対する対応とも言える。
過去2年間ブッシュ政権は中国に元のドル・ペグ制度を緩和する様に求めてきており、中国もより柔軟な通貨制度を導入する意図はあるが、それよりも国内金融制度の改革が優先すると述べている。
そこで何故中国は国内金融制度の改革を優先する必要があるのか?ということとその可能性と時期は何時なのか?ということについて私見を述べたい。
国内金融制度の改革とはより具体的には4大銀行を中心とする大手銀行の不良債権の処理である。
現在中国政府は4大銀行の内、中国銀行と中国建設銀行については不良債権処理策の一環として各々225億ドル、中国工商銀行に150億ドルのドル資産(米国債券が中心と思われる)を外為勘定から贈与している。また今後中国商工銀行と中国農業銀行の救済に引き続き外貨準備を使う予定と言われている。
従って不良債権処理の前に人民元切上げにより保有しているドル資産価値が下落すると4大銀行救済策に齟齬をきたすと考えられる。また不良債権処理前に人民元の変動相場制移行が起きると人民元金利の上昇が予想され、これは不良債権を抱える銀行にとって大きな痛手となる。従って人民元の切上げまたは変動相場制への移行の前に不良債権処理を進める必要があると中国政府が考えていると思われる。
ところで4月28日のファイナンシャルタイムズ紙によれば、S&Pは中国工商銀行と農業銀行の資本強化のために、1,900億ドルの資本注入が必要だろうという見解を示した。この金額は既に中国政府が投入している600億ドルに比べて相当大きい金額である。
また1,900億ドルという数字は現在の中国の外貨準備高とほぼ同額である。つまり中国は外貨準備全額を二つの銀行の救済のため投入する必要があるということだ。
中国政府の意図は4大銀行を上場して資本増強を行うことであり、中国銀行と建設銀行の上場を先行させる予定であるが、色々な障害があるようだ。
中でも大きな問題は、ROAの低さである。S&Pによれば貸倒引当前のROAは1.2%と低く外国人投資家にとって魅力のないものとなっている。
ところが銀行の改革が遅れると、中国の銀行の貸出は現在のまま、鉄鋼・セメント・自動車等の限られた基幹産業向けの貸出が持続することになる。これらの基幹産業は既に過剰設備を抱えてかつ生産性も低いので、追加貸出を行っても不良債権がますます増加するという悪循環に陥る。
またドル・ペグ制をとっているため、引締政策を取ろうと思っても、金利を引き上げると必要以上に外貨が流入するという問題があり、中国政府は意図的に低金利政策をとっている。これが金利政策の柔軟性を失わせている。
以上のようなことが中国の金融政策上の問題点であるが、まとめて考えると人民元がより柔軟な為替制度に移行する時期は4大銀行の救済策~更に言えば最大の問題である工商銀行の救済策が判然とする時が一つの目安になるのではないかと考えている。
以上