今年の夏は例年になく、頻繁に信州方面に山登りにでかけた。これ程頻繁に出かけることが前もって分かっていれば「あずさ回数券」でも購入しておくのだったが・・・。7月末の中央アルプス駒ケ岳、8月初めの剱岳とタンボ沢の下山、先日の焼岳、そして最後が今週末の鹿島槍ヶ岳である。それぞれ楽しい山登りだったが、個人的に一番期待しているのは、今度の鹿島槍ヶ岳登山である。というのはまず鹿島槍ヶ岳が私にとって初めての山だからだ。
鹿島槍ヶ岳を好きだという人は多い。深田久弥は「日本百名山」の中で「鹿島槍ヶ岳は私の大好きな山である。高い所に立って北アルプス連嶺が見えてくると、ます私の眼の探すのは、双耳峰を持ったこの山である。・・・・・一口に美しいと言っても、笠ヶ岳のように端正でもなく、薬師のように雄大でもなく、剱岳のように峻烈でもない。そういう有り合わせの形容の見つからない、非通俗的な美しさである。・・・一たんその良さがわかると、もう好きで堪らなくなる、そういう魅力を持った美しい姿である。」と絶賛している。
写真は私が今年の8月初旬に剱岳に登った時頂上から撮ったものだ。鹿島槍の双耳峰がきれいに写っていると思うが、深田久弥の百名山は次のように述べている。「この山は信州側から見るのがよく、越中側からでは、・・・やや精彩を欠く。」
まさに剱岳からの眺めは精彩を欠いているかもしれないが、この山への登頂意欲を高めるワンショットであった。鹿島槍ヶ岳は私のように古い大学山岳部の出身者には、意外に遠い存在だった。鹿島槍ヶ岳が大学山岳部が目指したアルピニズムの舞台になるのは、積雪期である。東面の尾根や岩壁は、積雪期には若いアルピニストに絶好の舞台を提供するが、雪のない時期はboringな山である。積雪期には槍ヶ岳などチャレンジングが目標を持っていた我々が,鹿島槍ヶ岳を後回しにしていたのは、やむを得ないことだと私は思っている。
だがとうとうその鹿島槍ヶ岳2,890mの頂上を目指す日が迫ってきた。
昼の雲
船のさまして動かざる
鹿島槍てふ
藍の山かな
三好達治
鹿島槍ヶ岳の時期が迫っている。山は常にワクワクさせるが、今回のワクワク感はかなり大きい。深田久弥は「(初めて頂上に立って)以来鹿島槍は私の心を擒(とりこ)にして今日に及んでいる」、とまで絶賛しているが、果たして鹿島槍は私の「山の引き出し」の中でどれほどの場所を占めるだろうか?
これは登る前からの楽しみである。