剱岳(2,999m)はアルプスの中で私が一番沢山登っている山である。春夏合わせて7,8回は登っている。一番最後に剱岳の頂上を踏んだのは、約30年前の初冬のこと。池ノ谷から剣尾根という岩と雪の厳しいルートをビバーク2日で登ったのが最後だった。
それから30年、5年前に発足した会社の山の会のメンバーも白馬・槍・奥穂高と北アルプスの名峰を次々と登り、ついに今年は百名山の中でも一番困難だといわれている剱岳への挑戦となった。
8月3日(金曜日)快晴。午前9時少し前に富山からの直行バスで室堂到着。9時20分室堂を出発し、10時5分雷鳥沢キャンプ場到着。ここから浄土橋で称名川を渡り、別山乗越へ延々とした登りを続けた。頭の中では「雷鳥沢ではなく左側の新室堂乗越経由の方が傾斜が緩くて楽だ」と思っていたが、スーッと分岐点を過ぎて雷鳥沢の道を登っていた。11時55分別山乗越到着。
目の前に剱岳がそびえる絶景だ。乗越から剣山荘に向かうルートは剣御前の下をトラバース気味に降るルートと剣沢経由ルートの二つがあるが、往路をトラバースルートをたどった。
12時25分別山乗越を出発。40分程歩くと真下に剣山荘が見えてきた。
13時40分剣山荘到着。温水がたっぷり出るシャワーで汗を流した。大変暑い日で盛んに水を飲んだためやや食欲が落ちていると感じた山の一日目である。
明けて8月4日土曜日剱岳登山本番。今日も快晴。5時30分剣山荘出発。
写真は6時少し前に通過した一服剱の鎖場。一服剱の上にでると前剱が目の前にそびえている。浮石が多い前剱の登りは気を使うところだ。
前剱の上に立つと剱岳本峰が目の前に見える。
前剱から平蔵のコルに降る岩場は登り・降りでルートが分かれている。登り(剱岳に向かって)は右側(剣沢寄り)のルートだ。時刻は午前8時である。
更に進むと平蔵谷の源頭部に近づく。ここの岩場は平蔵谷側を巻きながら下っていく。
平蔵谷の急峻な雪渓を登ってくるカップルの姿が見えた。平蔵雪渓の上部は約40度。5月の雪は尻もちをついても滑らない位腐っているが、夏の雪渓は万一滑ると熟達者でないとピッケルで滑落停止をするのが難しい位に固い。
平蔵のコルから上はいよいよカニのタテバイと呼ばれる最後の岩場で、ここが結構渋滞していた。渋滞の一つの理由は「安全ベルト+カラビナ付シュリンゲ」を使う人が多いことだ。カラビナを鎖にかけ替えながら登るで時間がかかるのだ。この方法だと万一滑落した場合、カラビナが鎖を止めているボルト(大体1,2mに一本か?)で止まるため、滑落時の安全性は高いといえる。反面操作に時間がかかる、カラビナ操作に気を取られ岩場に対する集中力が低下するといった問題点がありそうだ。
9時12分剱岳頂上到着。頂上からの眺望は素晴らしい。写真中央の立山の向こうに槍や穂高岳が見える。写真右端の円錐形の山は笠ヶ岳だ。
頂上からすぐ下を見ると源次郎尾根の上部が見えた。翌日黒部平でピッケルを持った女性が隣に来たので行き先を聞いてみると、源次郎尾根を登ったという話だった。この尾根を登るのはそれ程難しくはないが、源次郎Ⅱ峰の降りは30m程の懸垂下降がある。慣れた人なら雪渓を足元に見ながらの懸垂下降は楽しい空中散歩だ。
9時半に頂上を出て暫く降ると「カニの横ばい」という岩場にでた。ここは下り専用の道(登りはカニの縦ばい」という登り専用のルートを登る)で、岩壁のトラバースに入る第一歩が渋い、といわれている。もっとも体を岩から離して下を見ると簡単にステップが見えるので、岩に慣れた人には問題はないが。
渋滞、渋滞で剣山荘に戻ったのは12時半だった。小屋にデポした荷物を担いで雷鳥沢ヒュッテに向けて出発したのが1時10分。剣沢経由の道を延々と歩いて別山乗越に到着した時は午後3時である。雷鳥沢ヒュッテ到着は午後4時半を回っていた。この日の行動時間は11時間だった。今日は2リットルを超える水分(除くビール)を取ったがなお少々熱中症気味であった。後半の写真が少ないのもそのせいかもしれない。百名山の中でもトップクラスの難度と言われる剱岳登山は結構体力が要るのだった。