ロドニー・A・ブルックス著『ブルックスの知能ロボット論』(五味隆志訳、オーム社)が面白い。
ブルックスは異色のロボット学者。「考えるロボット」を作ろうという今のロボット研究の主流に背を向け、「考えないロボット」の実現を目指し、しかもかなりの成果を上げているように見えます。
彼の研究成果の一部はソニーのアイボに生かされているし、掃除ロボット「ルンバ」はかなりのヒット作となったようです。
現在主流の「考えるロボット」が「頭脳」内部に外界のモデルや自分の意図を構築して、それから行動しようとするのに対し、ブルックスの「考えないロボット」は状況の中に身を浸し、外界との関わりから行動の方向を見出してゆく。彼のロボットの知性は環境との相互作用の中にあるといってもいいかもしれません。
本書の前半では「考えないロボット」というアイデアがどういうふうに生まれ、それをどう実現してきたかが語られる。昆虫型ロボットゲンギスや、表情で人間とコミュニケートするロボットキズメットを見ていると、生物とは何か、人間の社会性とは何かといった問いが、鋭く提起されていることを感じます。
最初に知性があり、それから何かの行動が発現してくるという考え方が、生物の進化から見ると逆方向であることは明らか。まず行動があり、その上にのっかる形で知性も誕生してきたというブルックスの主張は、間違っていないでしょう。
しかし、どれだけ経てば彼のロボットたちが知性を発達させるかを考えると、やはり道は遠い。そのせいか後半の、今後の見通しに関するエッセイ部分は切れ味が今ひとつと感じました。それでも、ハンス・モラヴェックのロボット論よりは納得のゆくところが多かった。