惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

作品としてのレコード

2017-08-22 21:35:17 | 音楽

 しつこく、今日も音楽とメディアの話を。

 レコードは、最初、音声を記録するものとして作られました。音楽に関していえば、演奏を吹き込むもの。
 しかし、蓄音機とレコードが普及し、産業として成立すると、レコードは単に既存の演奏を録音するだけでなく、商品とするため、レコード化を前提にして、新たな楽曲が創られるようになります。ポピュラー音楽の創造と流通の主流をレコードが占めるようになってゆくのです。

 それにともない、作曲し、編曲し、それを演奏したものをレコード化するだけでなく、録音の段階でさらに手を加え、レコードでなくては不可能な音づくりがなされるようになりました。
 その際の技法には、早回しや遅回し、逆回しなどがありますが、いちばんポピュラーなのは多重録音でしょう。

 多重録音によるヒット曲の始まりは、パティ・ペイジの「テネシー・ワルツ」といっていいようです。1950年のヒット曲。
 余談になりますが、リンク先のYoutubeの画像、ラベルの左側に「BMI」という文字があります。
 BMIは米国の音楽著作権管理団体のひとつ。1930年代末、それまで米国における唯一の音楽著作権団体だったASCAPが、新興メディアであるラジオでの楽曲使用料金の値上げを決めると、ラジオ業界はこれに反発、自分たちでBMIを立ち上げます。
 ブロードウェイを始めとする既存の音楽業界を束ねていたASCAPに対し、BMIはカントリーやフォーク、ブルースなど、それまであまり注目されていなかったジャンルの音楽にも手を伸ばし、そうした曲がラジオで流れるきっかけともなりました。
 「テネシー・ワルツ」がカントリーの曲なのも、そうした背景があってのことなのですが、先日のNHK・FMの朝妻一郎さんのお話によれば、この曲はBMI初の全米トップチャートに輝いたもので、BMIが勢力を拡大する契機となったようです。

 パティ・ペイジの歌声は3声が重ねられています。これはレコードの原盤に吹き込んだ声を再生しながら、次の声を重ねるという、原盤ダイレクトカッティングの手法で録られたということです。わかりやすい、原始的な方法ですね。

 多重録音によるレコード制作といえば、レス・ポールが有名です。彼も、この「テネシー・ワルツ」と同時期に、同じダイレクトカッティングによる多重録音に挑んでいます。"Lover"は1948年に吹き込まれた曲。すべて彼ひとりによるギター演奏です。特に後半の多彩な音の動きは驚異的。

 レス・ポールは、この後、性能のよいテープレコーダー(Ampex 製)を入手し、さらに多重録音にのめりこんでゆきます。
 その成果が、メアリー・フォードのヴォーカルをフィーチャーした"How High The Moon"。1951年にビルボード誌で9週間連続1位を続ける大ヒットとなりました。とても心地よい音づくり。
 ついでに書いてしまいますが、この曲の演奏ではナット・キング・コール、ジューン・クリスティ、メル・トーメのセッションがYouTubeにあって、これも大好き。

 話はそれましたが、このようにして、レコードは独自の音楽作品としての地位を占めるようになります。