午後、都心へ出て、東京ステーションギャラリーで「没後40年幻の画家・不染鉄」展を見ました。
東京ステーションギャラリーを訪れるのは初めて。赤レンガの古い建物の丸の内北口側ドームの2・3階部分を使った美術館で、1階入口から入場するとエレベーターで3階会場に上がり、ぐるっと見てから、2回の会場に下りる仕組みになっています。
レンガ壁が剥き出しで、欠けたレンガの上に絵画が吊り下げられていたりするのが面白い。
不染鉄(ふせん・てつ、1891~1976)は異色の日本画家。これまで、後半生を過ごした奈良での展覧会はあったものの、東日本では今回が初めての回顧展だとか。
若い時の作品から順に眺めていって、「あ、この人は鳥瞰の画家だ」と思いました。
カラスよりはもっと高いところを飛ぶ、たとえばトンビぐらいの高みから見た風景ばかりを描いているのです。民家のある里や漁村の風景がほとんど。藁ぶき屋根に障子、庭には井戸、畑には野菜が育っています。
時代が下り、奈良や海、そして富士山などが描かれるようになってくると、この人の異様さが強く感じられるようになります。
視点は相変わらず、空の高み。いや、海を描く時は、水面下にもぐって、魚や貝をクローズアップしたりします。
そうした、高度変化のある視点から見た風景がひとつの作品にまとめられている。
大和路などを描いたものは、道の途中の風景を、近景から遠景にまで配しているのでしょう。鳥瞰の絵地図のような趣き。
これが行き着いたのが、大作「山海図絵〈伊豆の追憶〉」で、手前には伊豆の海岸があり、その向こうには東海道線でしょうか、蒸気機関車の走る線路、家々、そして富士山がそびえ、さらに先には、雪に覆われた日本海岸の村が見えます。日本を横断して飛んだ鳥の目が見た、幻の光景。凄いです。
そうした風景が、いったん、画家の記憶の中に溶かし込まれ、思い出として描かれているのも特筆すべき点。リアルな風景ではなく、ファンタジーなのです。その最たるものが「海」という作品。
伊豆の海を描いているのですが、画家がかつて暮らした海辺の村が、魚の泳ぐ海の中にあったりします。
不思議な画家がいたものです。〈芸術新潮〉か〈太陽〉で特集してくれないものかしら。
「インターネットミュージアム」なるものがあって、この展覧会もざっと眺められますが、とりあえず、いちばん特徴の出ている第3章「聖なる塔・富士」へリンクを貼っておきます。