金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

<strong>死の壁</strong>を読む

2005年12月21日 | 本と雑誌

養老猛司氏の「死の壁」(新潮新書 680円)を読んだ。一言でいうとこれはすごい本である。何故すごいかというと医学、哲学、社会心理学、歴史等に関する深い洞察が詰まっている。表現は平易だが内容は深い。ただし各項目の連携はあまりないので時としてテーマの切り替わり若干戸惑う時もある。筆者はあとがきの最後の部分でこう述べる。

これで自分の中に溜まっていたものは、ほとんどすべて吐き出したと思います。逆さに振っても、もう何もでない。

当代を代表するような学者がすべてのものを吐き出したのだから内容が豊富で深くない訳がない。という事でとにかく一読をお勧めするが二つ印象に残ったテーマについて感想を述べる。

一つは終章の中の死の恐怖は存在しないという話だ。筆者は「自分の死について延々と悩んでも仕方が無いのです。そんなのは考えても答えがあるものではない。」「極端に言えば、自分にとって死は無いという言い方が出来るのです。」「死んだらどうなるのかは、死んでいないからわかりません。」という。この考え方はギリシアの快楽主義哲学者エピクロスの「死はわれわれにとって無関係である。なぜならわれわwれが現在するときは死は現在せず、死が現在する時にわれわれは存在しないから。」という言葉とまったく符合する。

また禅宗では自分の死後のことなど考えてもどうにもならないとこを考えることを莫妄想(まくもうそう)という言葉で戒めている。妄想するなかれということだ。また孔子は言う「我いまだ生を知らず。いずくんぞ死を知らんや」

これも筆者と同じ考えである。結論に至る思考過程に違いはあるかもしれないが、結論は自分の死後のことなど考えても意味が無いということなのだ。

もう一つ筆者に強く共感するところを紹介しよう。それは軍国主義者は戦争をしらないという項で述べている戦争に外交の手段という側面は間違いなく存在しているのです。しかし、日本人にはその感覚が無さすぎた。・・・つまり「外交」が抜け落ちて軍だけが走ってしまったということです。政治の一手段だったはずの戦争が、むしろ逆に目的になってしまった。という部分である。

私は手段が目的化する傾向というのは日本人の一つの特性ではないか?と考えることがある。例えば企業社会におけるリストラだ。リストラの目的とは本来会社を強くするためのリ・ストラクチャリングつまり再構築であり人を削減することではない。人を削減することは時としてリストラの有力な手段ではあるが、決して目的ではない。ところが時として人減らしが目的化する・・・・。

ではどうして日本では手段が目的化する傾向があるのだろうか?これは自己流の推測だが、日本人が形を重視することにあると見る。武道・茶道・華道総て形だ。形が総て悪い訳ではない。形は技術を確実にはば広く伝達する手法である。形は時に集団の精神を規定する。しかし形は手段であって目的ではない。例えば武道で形を守って負けてしまってはどうなる。死があるのみだ。例えば元寇の時日本人は日本流の戦闘方法を取ったため最初大敗北を喫した様だ。もっともその後集団戦法に切り替えて対応した様だが。

つまるところ日本人は日本列島という閉鎖的な地域で長い間暮らしてきたので、独自の形の文化を形成してきた。その中で形を重視する余り時として形=手段が目的化する傾向が醸成されてきたと私は考えている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

マイレージ・サービスの経済学

2005年12月21日 | うんちく・小ネタ

今日はマイレージ・サービスに関連して固い話とちょっと役に立つ話をしよう。固い話というのはエコノミスト誌に載っていたエア・ラインのマイレージの話でちょっと役に立つ話というのは私のView Suicaカードの使い方についてだ。

まず最近のエコノミスト誌に載っていたマイレージの話。

  • マイレージ・サービスは1981年にアメリカン航空が始めて、現在では世界の130以上の航空会社が同サービスを提供し、世界中で163百万人が何らかの形でマイレージを貯めている。世評では個人で一番マイレージを貯めた記録は25百万マイル(ロンドン・シドニー間を250回往復できるマイレージ)で出版会社の社長が会社の郵便料金を個人のクレジットカードで支払いマイレージを獲得したらしい。
  • 今マイレージの半分以上はクレジットカードでの買い物や電話代など地上で獲得されている。
  • 2004年に2千万枚のフリー航空券が発券された。典型的には1飛行機の内7,8%はフリー航空券による乗客である。
  • 大部分の航空会社では1マイルの飛行距離で1マイル蓄積する仕組みになっている。航空会社はこのマイルを1マイル当たり1~2セントでクレジットカード会社へ売却している。もしマイレージ・サービスを最高に効率的に使う~例えば大西洋横断のビジネスクラス~なら1マイルの価値は10セントになるだろう。
  • マイレージ・サービスは単なるマーケッティングの上手い手口だけではなく、航空会社にとって楽に収益を稼ぐ手段になっている。というのは乗客にとって航空券は数万円の価値があるものだが、航空会社の燃料代等の限界費用は米国内便の往復便で一人当たり25ドルと推定されるからだ。
  • マイレージ・サービスによるフリーチケットの利用率は低下している。これは余りにも多くのフリーチケットを持った乗客が少ないフリーチケット用の座席を取り合っているからだ。大部分の米国の航空会社は2階建てシステムを採用している。これは2万5千マイルで国内便1枚の航空券に交換することができるが、そのシートは数が限られている。しかし2倍のマイレージ(つまり5万マイル)を出せば制限なく座席を得られるという仕組みだ。これは一つの平価切下げである。

エコノミスト誌の記事はこの後大手航空会社が破綻すればマイレージは使えなくなるリスクがあると述べ、マイレージの約款では禁止されているがマイレージを換金するブラック・マーケットがあるなどと続くがこの辺で端折ることにしよう。

次がちょっと役に立つ話であるが、私はView Suicaつまり東日本旅客鉄道(株)が発行するスイカ付クレジットカードを使ってポイントを貯めている。ポイント蓄積プログラムの概要は次のとおりだ。

一般には1,000円の買い物で2ポイント付与。切符や定期券などJRの商品を買うと付与率が3倍になる。貯めたポイントは400ポイントで1,000円をスイカにチャージできる(勿論商品や金券等に交換もできる)というものだ。

例えば10万円の通勤定期券をView Suicaで買うと600ポイントが付くが、これは1,500円に相当する。1,500円は10万円の1.5%である。これを銀行預金と較べてみようか?今1,000万円以上の大口定期の1年ものの金利が0.03%程度であるから1,500円を利息で稼ぐには、500万円を1年間預金する必要があるのだ。

私の会社も総務の人員削減等で役員と言えども現金支給で自分で定期を買う様になっている。しかしこれはちょっとした小銭を稼ぐチャンスでもあるのだ。通勤定期代は年間で17,8万円だから25百円程度のポイントを得ることができる。出張や帰省旅行等についても出来るだけ自分でえきねっと(JR東日本のインターネットによる指定席購入システム)を利用してView Suicaを使う様にしている。

その他JR以外でも使える店が広がった電子マネー・スイカを出来るだけ使うことにしている。例えば僕は大手町オアゾの丸善で本を買うことが多いがここはスイカが使えるのだ。

そんなことを組み合わせると一年間で1万円とは言わないものの7,8千円程度相当分のポイントはスイカで稼げそうだ。7,8千円程度大した話でもないようだが、金利で稼ごうと思うと2千万円以上のお金を1年間銀行に寝かせる必要があるのだ。と思うと大した努力もせずスイカを使うだけで7,8千円のお金を得るということは価値のある話かもしれない。

                                                 以上

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする