ある読者の方から銀行預金の相続について2回コメントを頂いたので、現時点におけるこの問題に関する管見を述べておきます。なおこれはあくまで私見でして、日本相続学会の公式見解ではありません。
頂いた最初のコメントは私の「定期預金は遺産分割協議を要せずに法定相続分に応じて分割される」という記事に対して「それは間違いです。最高裁の小法廷で国債でさえ遺産分割協議を要すると判決がでました」というものでした。
次に頂いたコメントは「前回のコメントは間違いでした。最高裁の判例によれば預貯金などの金銭債権は法定相続分に応じて帰属する・・・」というものでした。
三段論法的に預金の相続問題を考えると次のようになります。
① 可分債権は分れて相続されるのが原則である。
② 預金は可分債権である。
③ だから預金は法定相続分に応じて当然に分割される。
ということなのですが、このロジックには幾つか注意するべき点があります。一つは①の「原則」という点です。原則には例外があります。何が例外か?というと可分債権も相続人が同意すれば遺産分割協議の対象になるということです。たとえば兄妹の二人が相続人となった場合「お兄ちゃんは親の自宅を相続するから預金は80%妹が貰う」などという分割協議はよくあることだと思います。
次に預金と一口にいっても「定期預金」と「普通預金」に大きく分けることができ、定期預金の中には大口定期預金のように下限金額が決まっていて、分割すると下限金額を下回る場合はどうなのだなどという問題が出てきます。また預金ではありませんが、投資信託は当然分割されるのか?という問題もあります。投資信託の場合は適合性の原則がありますから、相続人のリスク耐性が低いと判断される場合はその投信を(投信のままでは)相続することがふさわしくないという問題が発生します。
このあたりについては下級審では色々な判例が出ていますが、定期預金については不可分性を重視する傾向が強くなっているのではないか?と私は判断しています。
「預金債権は可分債権だから相続預金のうち、自分の持ち分を払い出してくれ、と銀行に申し入れたが、相続人全員の同意がないとダメといわれた」という話を聞きます。一方相続人の人が弁護士を連れて銀行に行き、払い出してくれないなら訴訟すると強談判したら銀行が渋々応じてくれたという話も仄聞します。
銀行がなぜ預金の払い出しに相続人全員の同意を求めるか?というと遺産分割協議により法定相続割合とは異なる分割が行われる可能性があるからです。
銀行は特定の相続人に相続分に応じた預金の払い出しを行い、その後他の相続人から「遺産分割協議ではこうなっている」とか「その相続人が相続排除(やや極端ですが)されていた」などの理由で損害賠償を請求されることを警戒しているのです。
ということで簡単に割り切れないのが預金相続の問題だ、と私は考えています。そして金額にもよりますが、相続財産となる不動産の価格に匹敵するような預金がある場合はこれを遺産分割協議の対象にするのが衡平なのだろうと私は考えています。