金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

否決されるだろうけど、ちょっと気になるスイスの「貨物機マネー」プラン

2016年06月03日 | ニュース

今世界が注目している欧州の国民投票は今月23日に予定されている英国のEU離脱可否投票だ。

世論調査では可否拮抗かやや離脱支持が多いようだが、ブックメーカーの賭け率を見ると残留支持が多い。金が賭かった方がより正確な予想がつくという意見もあるので、私は英国のEU残留の可能性が高いのではないか?と判断している。

ところで日本ではあまり注目を集めていないようだが、今週日曜日スイスである国民投票が行われる予定だ。それは「ベーシックマネーという一律の金額を全国民(ただし子どもは減額)に政府が配る」という制度に関するものだ。配る金額は特定されていないが1人毎月2,500フラン(1フラン=110円として27.5万円)という見方多いようだ。

ベーシックマネーは総ての人に配られる。低所得者にも富豪にも。つまり必要とする人にも必要としない人にもだ。究極のヘリコプターマネー、いやヘリコプターではなく、大型貨物機で空からお金をばらまくような政策である。

スイスでは10万人の支持者を集めるとどんな法案でも国民投票にかけることができるので、このような一見荒唐無稽と思われる政策も国民投票の対象になる。ただし大方の予想ではこの法案は国民投票で否決されるだろうという。

WSJによるとスイスの労働組合連合の幹部は「このアイディアは魅力的に見えるけれど、実現するには余りにも困難だ。我々は総てのことを不確実性の世界に置くよりは、社会保障制度の改革を望む」と述べている。

仮にベーシックマネー政策法案が可決された場合、財源はどうするのだろうか?ということを考えると「既存の社会保障費を大幅に減らすか増税をするかあるいはその組み合わせ」ということになる。また働かなくても毎月2,500フランのてお金が貰えるということであれば、勤労意欲が低下し経済活動が低下するという懸念は強い(なおスイスは物価が非常に高いので月2,500フランは大した金ではないという見方もある)。

スイスのベーシックマネーというアイディアは一目みると荒唐無稽のアイディアに見えるが、よく考えると安倍内閣が決定した消費税引き上げ延期も実は同じような性格を持っていると考えられる(もちろん一人一人に与える金額のインパクトは違う)。

つまり本来は不足している社会保障費等に充当するべき消費税を徴収しない(ある意味ではその分のお金をヘリコプターで撒いている)からである。

消費税引き上げ延期の恩恵は、広く薄く総ての所得階層の人に及ぶ。消費税が引き上げられても所得性向が変わらないような所得層もその恩恵を受けるのである。一方徴収した所得税を本当に社会保障を必要とする人に配分することは先送りされる(あるいは先送りされない場合は国の借金が増える)のである。

スイスの一部の人が提案しているベーシック・インカムは私は現実的な政策だとは思わないが、スイスの財政状況は健全で国の債務はGDPの45%に過ぎない(日本の債務はGDPの2.5倍)から、日本人が思うほどには荒唐無稽ではないのかもしれないが・・・

むしろスイス人から見れば多額の借金を減らす具体策を考えずにヘリコプターマネーを配り続ける日本の方が荒唐無稽に思えるかもしれない。ただし実際にスイス人に聞いた訳ではないので、これは私の推測である。

 

コメント
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