昨日全米不動産業者協会は、11月の既存住宅販売数は前月比5.6%増加し、季節調整後で年率換算581万戸の販売戸数に達したと発表した。これはリーマンショック前の2006年12月以来の強い数字だった。
夏のハリケーンの影響で既存住宅の販売が一時鈍化したことのキャッチアップ要因などもあるが、基本的には既存住宅への需要は相当強い。
既存住宅の在庫は3.4か月分で1999年以降で一番低い水準になっている。
既存住宅の供給不足から住宅価格の中央値は1年前から5.8%上昇し、248千ドル(約28百万円)になっている。エコノミストによると「もしもっと中古住宅が市場にでれば、既存住宅販売数はもっと伸びていただろう」と述べている。
★ ★ ★
820万戸の空き家を抱える日本から見ると目のくらむほどうらやましい数字だ。
なぜ米国では既存住宅の販売は好調なのに、日本ではまったく不調なのか?その原因を考えてみた。
まず少し古いデータだが、国交省の「中古住宅流通、リフォーム市場の現状」(2010年)を見てみよう。
当時のデータで日本の年間既存住宅販売数は17.1万戸。既存住宅の流通割合(既存住宅流通/(既存住宅流通数+新築数)は、13.5%だ。
同時期(データは2006年)の米国の年間既存住宅販売数は678.4万戸、既存住宅の流通割合は77.6%だ。
まず第一に気が付くことは「米国ではとにかく住宅がよく売れている」ということだ。日本の人口は127百万人で米国の人口は322百万人で2.5倍だ。
ところが年間住宅販売戸数(新規+既存)では、米国は日本の約7倍になっている。既存住宅の流通量では40倍だ。その差は「日本人があまり住宅を買い替えないのに較べアメリカ人は頻繁に住宅を買い替える」ことにある。つまり日本人は引っ越し嫌いなのに、アメリカ人は引っ越し好きということだ。
ではなぜアメリカ人は引っ越しが好きなのか?という問題は、中々奥深い問題で、私は現時点で明確な答は持っていないが「移動することで人生の可能性を高める」という考え方が根底にあると考えている。
人が人生で何回引っ越しをするかを数値化したものを「生涯移動回数」と呼ぶ。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本人男子の生涯移動回数は男子が3.21回、女子が3.03回となっている(なおもう少し多いという調査もある)。
アメリカ人の生涯移動回数については17回(フェデックス調査)という数字がある。
大雑把に見てアメリカ人は日本人の4~5倍位引っ越しすると見ておいてよいだろう。
アメリカ人はライフステージに合わせて、引っ越しをし、その時に既存住宅を売却するから既存住宅取引が活発だということができる。
次にアメリカ人には、そして欧米諸国全体を通じて、住宅には中古という概念がないことだ。美術品に中古という概念がないのと同様に。
欧米では数十年前に建築された住宅を今でも手入れして使っているのである。基本的な生活様式が変わっていないからそれで充分なのである。
一般的に日本人は新しい物を好む傾向が強いから「既存住宅」を「中古住宅」と呼び、20年前の住宅になると「古屋あり」としてしまうのである。
日本の住宅建設がある時期経済成長を牽引してきたことは間違いない。だがそれが今大きな負担となっている。
なぜ米国で既存住宅が大事にされるか?という点については、米国では環境アセスメントなどのハードルが高く、新規住宅分譲が日本ほど容易でないということも考える必要がある。
既存住宅が流通するということは、老後資金を住宅の中に蓄えることができるということである。リタイアした後、大都会周辺の住宅を売却し、フロリダなどに移住することが可能なのだ。820万戸という膨大な日本の既存住宅は不良在庫となり、住宅の流動性を著しく低下させ、移住の選択肢を狭めているのである。