日本のインターネットサイトを見ていると、「公的年金だけでは老後資金が枯渇するから投資をしましょう」的なことを書いている記事に出会うことが多い。
証券会社が株式や投信などリスク商品を販売する目的でこのような記事を書かせているのだが、ターゲットは退職前の比較的若い人だ。
日本の退職者の多くは退職金を預金に寝かしている。その一方で千葉銀行など金融機関に仕組債を買わされて虎の子の退職金を失ってしまった人もいる。
もちろん自分のビューを持って株式投資を続け、それなりのリターンをあげている人もいるがそれほど多くはないかもしれない。
さてWSJにAmerica's retirees are investing more like 30-year oldsという記事が出ていた。アメリカの退職者は30代と同じように株式投資を続けているという記事だ。
伝統的な知恵では「年を取るにつれポートフォリオを株式から債券にシフトする方が良い」というものだが、現在のシニア層は違っている。
55歳以上でヴァンガードの401Kアカウントを保有する人のポートフォリオの7割以上は株式だ。この比率は2011年には38%だったから倍近く株式比率が高まった。
ヴァンガードの課税口座については、85歳以上の投資家の5人に1人はほとんどの資金を株式に振り向けている。
記事によるとベビーブーマー層の投資の特徴は、自分で投資対象を選んでいる人が多いということだ。フィデリティの401Kアカウントではベビーブーマー層(1945年~55年生まれ)の53%は時分で投資対象を選んでいるが、これはもっと若いX世代(1965年~81年頃生まれ)の42%やミレニアル世代(1981年~90年代半ば生まれ)の25%を上回っている。
なぜアメリカではシニア層でも投資リスクを取る人が増えているのか?
その理由の一つは、預金はいうまでもなく債券投資でもインフレをカバーするようなリターンが得られないからだ。これに較べてS&P500で代表される株式ベンチマークは1982年以降年平均10.1%のリターンをあげている。
このリターンはもっと長期の1928年からのリターン7.4%を上回っている。
つまりここ40年ほど株式にリターンは向上しているのだ。
一方株式投資には、金融危機や経済危機に起因する暴落リスクや個別株の株価不振リスクなどが付きまとう。
しかし株式投資を行っているシニア層が楽観的なのは、過去にこれらの危機が起きた時連銀が金融緩和策で市場を救済してきたという安心感があるからだ。
この記事は幾つかのことを示唆している。
一つは我々を取り巻くリスクは色々あるということだ。株式市場のボラティリティもそのリスクの一つだが、それを避けて預金をしているとインフレによる資産価値の確実な目減りリスクを背負う。
自分で資産配分や銘柄選択を行うアクティブ投資は、思い込みリスクを伴うが、過去の経験に頼るプロと称するアドバイザーが不透明な相場で高いパフォーマンスをあげるとは限らない。
まあ、元気な限りある程度アクティブに投資するのが良いと私は考えている。
そんな中で絶対にしてはいけないことは仕組債を買うことだ。仕組債は有価証券の本質である流動性を殺している。換金したいときに妥当な価格(マーケットプライス)で換金できないようなものは投資と呼ぶに値しない。
次にできればやめた方が良いことは、銀行や証券会社の窓口で投資商品を買うことだ。これはわざわざ高い手数料を金融機関に差し上げていることに他ならない。手数料をあげてもそれに見合うアドバイスを受けることができれば意味があるが、現在の金融機関ではそれは困難だろう。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます