最近読んだ科学書の中で抜群に面白かったのがアンドリュー・パーカー著『眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く』(渡辺政隆+今西康子訳、草思社)。
タイトルとサブタイトルで要点は尽くされています。現在の動物の基本デザインが一挙に出現したカンブリア紀の生命大爆発の謎を探った本で、その解答が「眼の誕生」というわけ。
動物が得た感覚の中で視覚がいかに大切だったかを、パーカーは強調する。地球には太陽からの光があふれている。視覚があれば獲物を捕らえる能力は飛躍的に増大する。逆に、敵から逃れる能力も増大する。かくして、視覚の獲得とともに動物は熾烈な進化の競争に突入した。
動物界には38の門(節足動物とか脊索動物とかいったおおまかな分類項目ですね)が存在するが、眼を持つのは6門でしかない。えっ、そんなに少ないのかと驚かされますが、カイメンだとかイソギンチャクだとか、確かに「原始的な動物」には眼のないものが結構いますよね。
門の数こそ少ないが、種の数で計算すると、眼を持つ動物は圧倒的多数となる。95パーセントの種が眼を持っているというのです。
つまり、眼を持つ動物は非常に多彩な進化を遂げたということでしょう。パーカーによれば「光スイッチ」が入ったことで、進化は加速されたことになる。
この説が専門家にどのように評価されているのか、とても興味の湧くところ。この本を読んだ限りでは、説得力も十分で、今後定説となってゆくのではないかと感じましたが、果たしてどうなるか。
ところで、ひとつ気になったのは、三葉虫の眼。
三葉虫こそが最初に眼を獲得した動物だとパーカーはいうのですが、そのレンズは方解石で出来ていた(279ページほか)。これはいい。化石の研究からいわれていることと一致します。
ところが、371ページには「三葉虫の眼のレンズを形成していたのも石英だった」とあるのです。方解石説は確かだとして、石英の眼を持つ三葉虫もいたのでしょうか? どうもよくわかりません。
編集部に問い合わせた方がいいのかなあ?