SF作家のダニエル・キイスさんが15日に亡くなられた。享年86。
代表作「アルジャーノンに花束を」の中編版を読んだのは、中学生の時だったか、高校生だったか。非常に強い印象を受け、高校の仲間とやっていたファンジンに「世界の終わりとチャーリイ・ゴードン」というエッセイを書いたことを覚えています。もしかしたら、大学で心理学を学ぼうと思ったことにも影響していたかもしれません。
そのキイスさんが早川書房の招きで初来日したのは1992年9月。
24日には有楽町の朝日ホールで講演がありましたが、その後、同じ壇上でキイスさんにインタビューする役目を頂戴し、あれこれお話をうかがう機会を得ました。
キイスさんは小柄で普通の日本人よりも背が低いぐらい。がっちりした体つきで笑みを絶やさず、しかし、メガネの奥の眼光には鋭いものがありました。
作品からもうかがえるように、非常に気配りの行き届いた方で、日本語の名刺まで用意して来日されたほど。
名刺には「オハイオ大学英米文学部 創作文学講座 教授 ダニエル・キーズ」とありました(そう、お名前の「KEYES」は「キイス」ではなく「キーズ」と発音するのです)。
そして、大学特製グッズのボールペンまでお土産にくださいました。来日を報告する〈SFマガジン〉1992年12月号のグラビアページに置いたのが、そのボールペンです。
講演の主な内容は、ご自身の作品のテーマに関するもので、必然的にそれは心理学的な知見と結びついていました(キイスさんの大学での専攻は心理学)。それと関連してカルト教団による心の支配につて警鐘を鳴らしておられたのが記憶に残っています。講演から2年半後にオウム真理教による地下鉄サリン事件が起きました。
対談でキイスさんの日常についてお聞きしたところ、朝は、起きると食事もせずに執筆に取り掛かるとのことでした。眠っている間に作品の問題点が解消されていることが多いので、それを見失わないうちに書くのだといっておられました。
そして、午後には奥様とゴルフに出かけるのだとか。
寡作ではありましたが、強い信念に裏付けられた作品を書き続け、読者の心に強く訴える作家でした。今でも力強い口調と親しげな笑顔が忘れられません。ご冥福をお祈りします。