昨年(2012年)11月に任意法人としてスタートした「日本相続学会」は先週木曜日(9月19日)に一般社団法人となり、法人格を取得した。
ほぼ毎月のようにセミナーを行い、会員も100名を越えたので法人格を取得して対外的な見栄えを良くするのに良いタイミングだったと思う。
「円満かつ円滑な相続」を進める目的で設立されたこの学会のメンバーは、税理士さんや保険会社のセールスマンなど実務家が多いのが特徴だ。会員の多くは、背中に揉め事の種を抱えたクライアントを抱えている。私のような評論家は例外的存在だ。
実務家は現在の法制・税制の中で具体的案件に取り組むが、評論家は必要があれば法制や税制の改正を提案する。
その評論家が考えた「円満な相続」の一つの解決策は何かというと、相続財産を残さない、特に相続人の間で分割し難い財産、具体的には不動産を残さないということなのだ。
相続財産があるから、揉め事が起きる。極論だが財産がなければ(例えばプラスの資産より借金の方が多くて、全相続人が相続放棄を行ったとしたら)、財産をめぐる相続争いは起きない。
「相続財産を残さない」といっても、資産を蕩尽することを勧める訳ではない。資産を自分が生きている内に子どもや孫に贈与していけば良いのである。日本では一般的に贈与税の税率が相続税のそれよりは高いが、幾つか例外がある。例えば祖父母や親から孫や子どもに教育資金を信託の枠組みを使って贈与すると受贈者一人当たり1,500万円まで非課税で贈与することが出来る。
制度が作られた理由はもちろん「相続争い」を減らすことではなく、祖父母が持つ資金を孫達に流すことで、経済を活性化させることにある。
また相続税の基礎控除枠(110万円)内で計画的に贈与を行っていくという方法もある。
バブル崩壊までは土地は値下がりしないという神話があった。だが今やその神話を信じる人は少ないだろう。昨今大都市圏では不動産の価格が持ち直しているが、人口減少が続くこの国で一般住宅地が大きく値を戻すことは期待しない方が良いと私は考えている。むしろ全国的には値下がりする可能性の方が高そうだ。
ともし判断するのであれば、値下がりリスクと分割の難しさから争いのもとになる不動産を自分の眼の黒い内にキャッシュ化しておくというのも揉め事を減らす方法の一つだろう。
遺産相続を相続人の経済力の観点から考えると、遺産をあてにしなくても暮らしていける生活基盤を持った相続人が多いほど遺産をめぐる争いの可能性は低いと私は考えている。
その生活基盤とは何だろうか?それは独立心や勤労意欲に加えて、その時々に求められる職業技術を獲得していける高い学力だろうと私は考えている。それらは教育によってもたらされる。つまり財産を抱え込んで、死を迎えるより、子や孫にそれを贈与して、生活基盤がしっかりした子孫を作っておくことが相続争いを減らす方法なのである。
と好き勝手なことを書いたが、これは勿論学会としての意見ではない。一評論家の気ままな意見に過ぎない。