昨日の朝、「都議選での自民党の大敗を受けて円高が進むのではないか?」という投機筋の観測から一時円が買われるという場面があったが、それはほんのひと時こと。昨日米国で発表されたサプライマネジメント協会(ISM)の製造業景況感指数が2年10カ月ぶりの高水準となり、米国の長期金利が上昇してドル高・円安になった。
為替や株の世界では、当面都議選での自民党の敗北は今のところほとんど影響がでていない。うがった見方として、安倍政権が支持率回復のために、経済重視に舵を切るという見方もあるようだが、私は相当懐疑的に見ている。昨日日銀が発表した短観を見てもわかるように、現在の日本の景気は底堅い。景気の底堅さは、日銀の金融政策を別にすれば、日本政府の後押しではなく、米国その他諸外国の景気の良さに支えられている面が大きい。
結局のところドル円為替の水準を決めていくのは、日米金利差に対する予想であり、日本の金利が相当長い期間ゼロ近辺に据え置かれると考えれば、米国の金利がどう動くか?ということが決定要因になる訳だ。
もっとも昨日発表されたISM景況感指数は米国経済の強さを裏書きするものだったが、そのことが直ちに連銀の政策金利引き上げにつながる訳ではない。先月の数字を見れば米国のインフレ率も鈍化気味で、次の金利引き上げをjustifyするレベルには達していないだろう。
ところで米国の北隣のカナダの景気が好調で、カナダドルは6月下旬に急伸した。これはカナダの中央銀行が早い時期に金融緩和縮小に向かう姿勢を示したことによる。
過去20年の経済成長率で見ると、カナダの成長率は2.5%で、米国の2.3%をわずかながら凌駕している。このカナダの持続的な経済成長率の高さの一つの要因は女性の労働参加率の高さである。カナダ・米国とも1990年代中頃の女性の労働参加率は75%程度で拮抗していたが、その後カナダは積極的な子育て支援策などで女性の労働参加率を高めてきた。その結果昨年時点での同国の女性労働参加率は82.2%に高まっている。一方米国の女性労働参加率は74.3%に留まっている。
この事実に着目してWSJは「どうすれば米国はもっと女性の職場進出を図れるかカナダに聞いてみれば?」という記事を書いていたが、日本こそカナダに学ぶ必要があるだろう。
話が脇道に外れたが、為替の決定要因は、内外金利差であり、現在の内外金利差は中央銀行の金融緩和路線からの方向転換の速度にかかっている。
中央銀行の金融政策を動かすのは、雇用情勢とインフレ率である。雇用情勢の一つのベンチマークは失業率だが、私は本当に重要なのは、一般的な失業率ではなく、不完全雇用失業率だろうと考えている。つまり「今の仕事に不満だけれど嫌々働いている」という人を失業者にカウントした失業率が大事だと考える次第だ。
この考え方に立つと、日本の非正規雇用者のかなりの部分は不完全雇用と分類され、失業率に関する全く違った絵姿があらわれる可能性がある。
労働参加率を高めることと、社会保険への加入を含めた同一労働同一賃金制度の確立が持続的な経済成長を可能にする唯一の方法なのだが、このことが政治の場で最重要課題として議論されていないことに私はもどかしさを感じている。そして日本がこの問題に取り組まない限り、経済成長には限界があり、敷衍していえば、長期的な円安傾向にあると私は考えている。