昨日(1月16日)法制審議会(民法・相続)が開催され、「配偶者居住権」の創設などを盛り込んだ民法改正などの要綱をまとめた。法務省は22日召集の通常国会に関連法の改正案を提出する予定だ。成立すると1980年以来の抜本的な制度改正になるそうだ。
改正案の中に「自筆証書遺言の方式緩和」という項目がある。現行法(民法968条)では、自筆証書はすべて手書きで作成されなければならない。改正案では「財産目録」のパソコン等による作成を認めようというものだ。
かなりの改正ともいえるが、私はこれを「先進諸国に較べ2周遅れを漸く0.5周ほど取り戻したもの」という評価を下している。なおこれは筆者個人の意見であり、日本相続学会の見解でないことをあらかじめお断りしておく。
まず先進国に較べ何故2周遅れなのかを説明しよう。先進国ではパソコンが普及するはるか前から遺言書はタイプライターで作成されていた。その流れでパソコンが普及して「ワード」で遺言書が作成されるようになったのは当然の流れである。
おそらく「自筆証書遺言は手書きでなければいけない」という規律を持っている国は日本以外では稀なのではないか?(皆無と言いたいが総ての国の事情を知っている訳ではないので稀とした)。
つまりここで1周遅れているのだ。
次の最近のアメリカやカナダの例を見ると「相続キット」というソフトウエアが1万円前後で販売されていて、これを使うと「遺言書・任意後見契約・リビングウイル(終末期医療)に関する委任契約」などが簡単に作成することができる。
ここでまた1周遅れている。つまりパソコンをタイプライターの代替品として使うところで1周遅れ、パソコン(IT技術)を意思決定や意思表現をサポートするツールとして活用することでまた1周遅れているのだ。
今回の改正案は手間のかかる「財産目録」の作成のパソコン化を認めるという点で最初の1周遅れの半分を取り戻したと私は評価している。
私の基本的な主張は「自筆証書のすべてのパソコン作成を認める」というものだが、その実施には大きな問題があった。それは「パソコンで作成された遺言書が本人が自由意志で作成したものかどうか担保する方法」である。パソコンで作成して本人が自筆で署名・押印するという方法では本人が自由意志で作成したことを保証するとは言い難い(偽造が容易であう)。
そこで本人が自由意志で作成したことを担保するには「証人」が必要だ。実際アメリカでは遺言書は利害関係者以外の2名の証人の前で署名して有効になるとされている。
ところで今回の改正案では「自筆遺言書の保管制度を創設」することが提案されている。これは法務省に「遺言書」の保管を申請する制度だ。法制審議会の案では「遺言書の保管が申請された際には、法務局の事務官が、当該遺言の・・・適合性を外形的に確認し、また遺言書は画像情報化して保存され、全ての法務大臣の指定する法務局からアクセスできるようにする」と述べられている。
ここで述べられている法務局の事務官の役割はアメリカのnotary publicと同様と考えてよいだろう。Notary publicは日本語では「公証人」と訳されるが、日本の公証人とは基本的に異なる。日本の公証人には判事経験者など法律の専門家であるが、アメリカのNotary publicは郵便局(全部ではないが)でも行っている「本人と自由意志の確認制度」なのである。つまり身分証明書等の本人確認書類を提示し宣誓を行ってnotary publicの前で署名した書類は、本人が自由意志で作成したと認められるのである。
以上のことを踏まえて私は「せっかく法務局に自筆遺言書の保管制度を創設するのであれば、事務官の前で遺言者本人が署名するパソコン作成の遺言書は有効とする」とすれば良いと考えている。遺言書を画像イメージで補完するより、文字データで保存する方が後々の検索などはるかに便利だと思うのだが如何なものだろうか?