昨日の米国株市場は、振幅が激しかった。中国政府が米国の輸出品に報復的な関税をかけるというニュースに相場は大きく下がったが、その後関税合戦は、交渉戦術に過ぎないという見方が広がり、株価は上昇した。ダウは最終230.94ポイント高で引けたが、この日の底値からは700ポイント以上上昇した。
中国が106の米国製品に関税をかけると発表した数時間後、トランプ大統領はツイッターでWe are not in a trade war with China,that war was lost many years agoとつぶやいた。「我々は中国と貿易戦争をしているのではない。戦争は何年か前に失敗した」
また貿易摩擦に関連して、中国が大量に保有する米国債を売約するのではないか?という懸念も一部にあったが、中国の朱光耀財務次官が否定した。
冷静に考えると米中貿易戦争は勘定の合わない争いである。米国が中国製品に高関税をかけると困るのは米国の消費者や企業だ。
また輸入障壁を設けることで、米国の工業生産額は増える可能性が高いが、製造業の雇用が増えるとは考え難い。
WSJはシカゴ大学のErik Hurst教授の「米国では工場部門の低スキルの仕事はロボット化されているので、工業生産が増えても雇用は増えない」という研究を紹介している。
2000年から昨年(2017年)の17年間で米国の工業部門は550万人の雇用を減らした。これは1980年から2000年の間に減らした雇用数の倍以上である。
中国等発展途上国からの安い輸入品との競争に直面した米国の工業はコスト削減のために生産工程のロボット化を進めたのだ。
雇用が増えずに製品価格が上昇するという経済政策は米国民の利益に反する。一方中国も大量に保有する米国債を売却すると国債価格が暴落し、保有債券価格が下落するとともに、米国金利が上昇し、人民元が下落し、資本流出が起きかねないというリスクを抱えている。
以上のようなことを考えると貿易戦争は一種の交渉戦術であるという解釈は合理的であるといえる。
しかし何が飛び出すか予想し難いのが、トランプ大統領だ。まだまだボラティリティの高い相場が続くことだけは間違いなさそうだ。