最近の日本の新聞では森友学園・加計学園問題が紙面のトップを飾ることが多いが、WSJなど英紙で取り上げられることはほとんどない。そもそも日本に関する記事が少ない。日本が世界の色々な市場に与えるインパクトが減っているのでニュースバリューが下がっているのだ。
そんな中日本に関する記事がでていると読みたくなるし、紹介してみたくなる。余談だが私は英語の読解力を着ける一番良い方法は、「WSJで日本に関する記事を読む」ことだと考えている。日本に関する記事は事柄のバックグラウンドあるいはフレームワークが分かっているので、少々分からない単語に遭遇しても読み進むことができるからだ。またWSJの英語はUSA Todayと並んで平明なので読みやすいからだ。
さて本題に戻ると記事のタイトルはJapanese workers call it quits on a firm tradition: The job for life「日本の労働者は企業の伝統・終身雇用を止める」というものだ。平均寿命が延び、働く期間も伸びている現在、私は既に終身雇用という言葉は死語になりつつあると思っているが、ここでは記事に従うことにする。
記事の順序を入れ替えてまず統計的な話から紹介しよう。
総務相の統計によると、昨年(2017年)転職した人の数は311万人で7年連続で増加を続けている。2月時点では、求職者100名に対し求人者数は158人という売り手市場でこれは過去44年間で最高レベルだ。
リクルートキャリアによると、転職者の29.7%はサラリーが転職前より10%以上上昇した。
転職者の数は増加しているが、1年間に仕事を変える人の割合はまだ5%以下に過ぎない。2016年時点で日本では平均すると一つの会社に約12年勤務している。英国の平均勤務年数は8.6年で、米国では平均勤続年数は報告されていないが、雇用期間の中央値は4.2年である。
日本の労働者が一つの会社で働く期間は米英に較べるとまだ長いが、12年なので数字上は終身雇用といえない状態だ。
だが大企業を中心とした「新卒大量採用、集合研修などの社員教育システム、生え抜き役員・社長を選ぶシステム」などを見ると終身雇用制度は一部で根強く残っているともいえる。
転職が盛んなのは、IT企業や知的財産権などを扱う企業が求める「特別な人材」を必要とする企業だ。
私の個人的な見解を加えると、これから一般企業でも「人材不足をシステム化で補う」ような人材は重宝されると考えている。仮にシステム化(ロボット化)などで、4人でやっていた仕事1人でできるようなシステム化を進めたならば、開発者に1人分のサラリーをインセンティブとして与えても良いような気がするが、会社の規模が大きいとそのような人事政策をとることはできない。
なぜなら伝統的な会社には職能資格給があり、多くの場合給料は「給与テーブル」の範囲で決められるからだ。従って「才能ある人材」を一本釣りで中途採用することが難しいのである。
一方新興企業の場合は個別年俸制度など人材にフォーカスした給与システムの導入が可能だから、才能ある人材の一本釣りがやり易い訳だ。
新卒大量採用・社内教育システムというのは、良く言えば「会社のフレームワークを理解し、上意下達型の人材を効率よく作る」システムであり、悪く言うと「他流試合を通じて、創造的な仕事ができる人材を排除するシステム」であった。
労働力の減少とIT技術・人工知能技術の発展により企業は生産性の向上を求められている。「さよなら」するべきは「給与テーブル」という考え方なのだろう。