金融そして時々山

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エベレストもヘリで登る時代?

2014年05月25日 | うんちく・小ネタ

ロイター等によると先週金曜日(5月23日)40歳の中国人女性Wang Jingさんが、4月の大規模雪崩事故以降初めてエベレストに登頂した。

Wangさんは雪崩事故でルートが破損して通行できなくなっているクーンブ氷河を避けて、ベースキャンプからキャンプ2(標高約65百メートルほど)までヘリコプターで登り、そこから登頂したという話だ。

キャンプ2といえば昨年三浦雄一郎さんが下山時にふらふらになりヘリで下山した場所だ。

ネパール政府は緊急時を除いてヘリコプターの利用を環境保護の観点から禁止している。しかしロイターによるとネパール観光局のDependra Poudel氏は「Wangさんは今シーズン初めてのエベレスト登頂者になった。これは歴史的な登山だし、ネパールの登山ツーリズムにとってポジティブな出来事だ」「これは雪崩事故の後エベレストが閉ざされていないということの証拠だし、今後もエベレストは閉ざされないだろう」と述べている。

もしPoude氏の発言が観光局の公式発言だとすると、今後はベースキャンプからキャンプ2の間の危険なアイスフォール帯の通過を避けるべく、ヘリ利用が一般化する可能性が高いことを示唆するし、シェルパのエベレスト登山ボイコットで外貨獲得源に悩むネパールにとって一つのソリューションを提供するかもしれない。

今年4月18日の雪崩事故では13名のシェルパ(シェルパ族のガイド)とシェルパ族以外の3名のガイドが死亡・行方不明になった。その後シェルパたちは仲間を弔うため、あるいは政府の補償に対する不満等から今年のエベレスト登山へのガイドをボイコットした。今やシェルパのガイドなしでは外国登山隊はエベレストに登ることは不可能だから、必然的に今年のプレシーズンの登山隊はエベレスト登山をあきらめた。

そんな中突然飛び込んできたWangさんの登頂ニュース。記事によると5名のシェルパが同行したという。多くのシェルパが今年のエベレスト登山をボイコットする中でなぜ5名のシェルパが中国人登山者に同行したか記事に説明はない。説明はないが、彼らがなんらかの理由で現金を稼ぎたかったことは容易に推測できる。エベレストに行くとシェルパはガイドとして1シーズンに5,000ドルほど稼ぐことができると言われている(ベースキャンプのコックでも2,500ドルは稼ぐという)。これはネパール人の平均年収が700ドル程度であることに較べれば大変な現金収入だ。

もう一つ着目しておくべきことは、シェルパの死亡事故がベースキャンプとキャンプ2の間で非常に高いことである。つまり危険なクーンブ氷河のアイスフォール帯のルート工作と荷揚げで雪崩に巻き込まれたり、氷河の崩壊で落命するシェルパが非常に多いということだ。

エベレスト登山が始まった1921年以来265名がエベレストで命を落としていて、シェルパとその他ポーター等の落命者は104名。シェルパたちの最大の事故原因は雪崩である。一方登山者の最大の死亡事故原因は滑落で、高所では死亡事故に占める登山者の割合が圧倒的に高い。また凍傷・疲労で死亡したシェルパはわずかに1名だが、登山者は42名が死亡している。高所民族のシェルパは高度に強いのである。

つまりキャンプ2まで登ってしまうとシェルパにとってはエベレスト登山のリスクは大幅に減じると判断したのではないか?と私は考えている。

ネパールのGDPの4%を担うと言われている登山収入の確保はネパール政府にとっても大きな課題だ。その点からエベレスト登山にヘリ利用を利用する、という方法が広く導入されるという可能性があると私は推測している。

しかしそれが良いのかどうかは悩ましい問題だ。一つは環境保全の問題でもう一つは登山者の安全の問題だ。登山者の安全というのは高度順化の問題である。いきなり標高65百メートルから登山を開始すると高山病にかかる可能性大だ。このレベルの標高に達すると一度ベースキャンプに戻り高度順化をする必要があるからだ。(Wangさんがどのようにして高度順化したか興味のあるところ)

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