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相続学会第二回研究大会のご案内

2014年10月02日 | 社会・経済

一般社団法人 日本相続学会は昨年に続いて、今年も11月に研究大会を行うことになった。http://souzoku-gakkai.jp/event/conf/

今年の研究大会で基調講演を行うのは、京都大学霊長類研究所の教授で文化功労者の松沢哲郎氏だ。

Drmatuszawa

松沢教授は類人猿つまりチンパンジー研究の専門家だ。で何故松沢教授に相続学会の研究大会でメインスピーカーをお願いするのか?という点については、実は学会理事の間でも軽い疑問の声が起こったことは確かだ。

だが松沢氏の講師招聘について尽力した学会長のI氏によると「相続というものは単に財産を次世代に引き継ぐだけではない。いかに生きてきたかということを含めて全人的な有形無形の財産を引き継ぐのが相続」ということになる。そして相続は人間のみならず動物の世界にもある。むしろ我々人間が見失ってしまった心の問題について類人猿から学ぶことがあるのではないか?ということになる。だから類人猿研究の第一人者である松沢教授にお話をお願いしたということになる。

ところで松沢哲郎氏と私は学生時代に多少面識があった。京都大学山岳部の松沢氏と神戸大学山岳部の私はともに関西学生山岳連盟の委員として1,2年の間、何度か顔を合わせて話をしたことがある。

松沢氏は1973年の京都大学のヤルンカン(カンチェンジュンガ西峰)遠征に学生として参加した。私の記憶が正しければ、京大隊はヤルンカンの初登頂に成功したが登頂メンバーの一人は下山途中で遭難した。ヒマラヤのパイオニアワークで名声を轟かせた京大山岳部(会)の悲劇はそこで終わらず、その後国内で幾つかの遭難事故が起きた・・・・。恐らく山岳部OBとして松沢氏は「あるべき山岳部の姿を模索する」上でも色々ご苦労をなされたのではないだろうか?

松沢氏が今回の講演でそのようなことに言及されるかどうかは分らないが、このような登山経験が、研究活動にどのように投影されているのかは興味深いところである。

話を相続に戻そう。

これは私個人の見解なのだが、相続財産が配分される切り口には、大雑把にいって5パターンあると考えている。

第一は「子孫繁栄」という切り口だ。歴史を振り返ると「子孫繁栄」のために、人間は色々な方法を生み出してきた。原則長男が家屋・田畑・祭祀を総て承継するというシステムもあれば、家刀自に優秀な婿を迎え家業の維持繁栄を図るというシステムもあった。この切り口はおおむね「強者優遇」型と考えてよいだろう。

第二は「平等」という切り口だ。現在の民法は遺言書による指定がない限り、子どもの間の相続分は相等しいと定めている。これを「平等」の切り口と呼ぼう。

第三は「公平」という切り口だ。平等が算術的な均等を意味するのに対し、「公平」は、相続人の被相続人に対する貢献度あるいは相続人の能力やもし障害があればその障害の度合いなどを考慮して、相続財産の配分を決めようという切り口だ。

第四は「生存配偶者保護」という切り口だ。相続財産は夫婦二人の力で作られたものだから、生き残った配偶者が生活に困らないように遺産は配分されるべきだという考え方だ。

第五は「遺言者の自由意思」という切り口だ。死にゆく人はこの世における自分の志を持続するために、財産の使い道を自由に指定することができる。たとえば学問を志す若い人のために「奨学金を支払う基金」を設立するなどと。

私は人間以外の動物の場合は「子孫繁栄のための強者優遇」という切り口が中心で、一部に「平等」という切り口が見られる程度だ、と考えている。

ライフサイクルにおける人間と人間以外の最大の違いは何か?

人間にあって他の動物にないものは「老後」である。年老いて走れなくなった草食獣はライオンのエサとなるが、年老いてエサを獲ることができなくなったライオンに仲間がエサを運ぶほどライオンの群れは多くの獲物をとることができない。だから食われるものも食うものも現役を終えると直ぐ死んでしまうしかない。

自分が食べる以上に食物を得る能力が人間に備わったことで「老後」が生まれ、相続にも色々な切り口が生まれてきた。そしてその色々な切り口の衝突が相続争いを起こす。総ての関係者が「一つの切り口」(遺産分配のルール)を共有することができれば争いは起きないのだが、豊かさは多様な切り口を生み出してきた。

この切り口のことを被相続人の側から見ると「遺産動機」と呼ぶ。一方相続人側からみると「遺産に対する期待」と考えてよいだろう。被相続人の「遺産動機」と相続人の「遺産に対する期待」のずれ、および「相続人の間の遺産に対する期待のずれ」が争いの原因になるのだ。

私はここでどの切り口が良いとか悪いとか述べる積りはない。ただこのような切り口があるということを知り、色々な考え方を持つ他者へ理解を深めるだけでも相続争いは少なくなるかもしれないと考えている。

 

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