金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

「国家の品格」を批評する

2005年12月11日 | 本と雑誌

最近藤原 正彦氏の「国家の品格」(新潮新書)を読んだ。正確にいうとワイフが買ってきた本を一足先に読んだ。ワイフは藤原 正彦氏のファンらしく我が家には氏の本が何冊もある。藤原 正彦氏は作家新田次郎氏と藤原ていさんの次男にして数学者。御茶ノ水女子大の教授である。私は若い時新田次郎氏の山岳小説を何冊か読み、山心を高ぶらせたことがある。特に超人的な単独行で有名な加藤文太郎をモデルした「孤高の人」は印象に残っている。ということもあり私も藤原 正彦氏の本は何冊も読んでいる。また私の次女がお茶の水女子大で数学を専攻したこともあり(もっとも藤原教授の授業を受けたかどうかは聞いていないが)藤原氏にはある種の親近感を抱いている。

ただしこの「国家の品格」についてはかなり悩ましい読後感を持っていると言わざるを得ない。問題点は次のとおりだ。第一はこの本の主旨は「日本は国家の品格を保ちそれで世界を救え。世界を救えるのは日本しかいない」というものだが、自己の主張を推し進めるあまり牽強付会の説明が多いこと。

第二は本筋とは余り関係のない部分とはいえ明らかな誤りが目立ち、本としての品格を落としている点。

では全く無意味な本なのか?というと著者の意見には賛成できるところもあるので無意味と切り捨てる訳にもいかない。よってこの本はある程度物事を知り、批判的精神がある人間が読めば意味があるが、無批判に読むと危険なことになる本であると警告を発しておこう。

以下具体的に問題点を指摘しておこう。

29頁から31頁にかけて「デリバティブの恐怖」についての説明がある。その中で「Aさんは3百万円の証拠金で3ヵ月後に現在と同じ千円で十万株(総計1億円)を売る権利を買うことができます。ところがこちらは、3百万円の証拠金をもらう代わりに売る権利を放棄できないことになっています」という記述があるが、これは明らかな誤り。オプションでは権利を買ったものは証拠金をギブアップしていつでも権利を放棄することができる。もしオプション引受のリスクに言及するのであれば、「売る権利を売る」と記述しなければならない。

もう一つ事実認識に関する大きな誤りを指摘しておこう。それは70頁で(カルヴァン主義の予定説に対し)「仏教の方では基本的に、善をなした人とか、念仏を一生懸命唱えた人だけが救済されるという理解しやすい因果律だからです」という記述があるがこれが間違いだ。日本で最大級の宗派は浄土真宗であるが、浄土真宗の教えは救済のために念仏を唱えるのではない。阿弥陀如来は総ての衆生を救うことを本願としているので念仏を唱えようが唱えまいが救済されるのである。従って浄土真宗の門徒が唱える念仏は阿弥陀如来の本願に対する感謝の念仏である。仏教が因果律であるというのは極めて皮相な見方である。

もう少し本質に関わる話としては「国際人を育てる」(143頁)というところである。まず著者はここでいう国際人とは「世界に出て、人間として尊敬されるような人」と定義し、福沢諭吉や新渡戸稲造を例に出し、真の国際人に外国語は関係ないと断言する。私はこれは牽強付会だと考える。確かに幕末から海外に渡った日本人の武士クラスで外国人の尊敬を受けた人は多い。著者は「尊敬を受けた日本人は日本の古典や漢籍、武士道を身につけていた」という。それは事実であるが、では何故日本の古典等を身につけていたら尊敬されたのか?という分析が弱い。筆者は民族としての個性に尊敬の源泉を求める様だが、それは一方的な見方であろう。つまり欧米人は日本人の考え方が彼らの基準に照らして一致するところが多かったから評価したのである。例えば「正直」「廉潔」「勇気」「奉仕」というような徳目は当時の先進国で共通する徳目であり、日本人がそれを持っていたから尊敬されたのである。

筆者は日本人の特殊性を強調する余り、徳目の世界的共通性を見失っているのではないだろうか?

私が思うに真の国際人に必要なものは他者理解力である。もし教養というものが他者を理解するために使われないとすれば教養には何の意味もない。明治の日本人が欧米で尊敬されたのはこの他者理解力の高さの故ではないだろうか?この他者理解力が古典や歴史あるいは文学作品により養われることは明らかだろう。よって結論だけを言えば古典や文学作品の読書の必要性を強調する筆者と私は同意見なのだが、思考の経路は少し違うようだ。

繰り返して言うが結論的には共感できるところもあるだけに「国家の品格」は悩ましい本である。

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冬晴の日は燻製を~たらことたまご~

2005年12月10日 | 燻製

冬晴の日は燻製作りに適する。乾いた空気が燻製の材料の乾燥に適するし、温度を上げない冷燻法には低い気温が必要なのだ。燻製作りは難しくないし、大したお金もかからない。必要なものは美味しいものを作ろうという意欲と良い食材とスモーカー(燻製作りの道具)と時間である。そう、燻製とは大人の男の料理なのだ。

さて僕は3年前から燻製作りを時々行っていて、去年まではダンボール箱の簡単なスモーカーを使っていたが、今年は冷燻・温燻・熱燻という3つの燻製方法に対応できる金属製のスモーカーを購入した。

smoker2

製品名は「ホームスモーカー・くんちゃん」、電熱器や温度計が付いて1万7千円程度である。

さて本日は簡単な「たらこ」と「たまご」の燻製を作ってみる。たらこの燻製は実に簡単だ。燻製は塩漬けにする工程が必要だが、市販のたらこは既に塩漬けされているので燻すだけで良いのだ。たらこはできるだけ薄味のものを選ぶ。たらこを網にのせる前に網にオリーブオイルを薄く塗っておくと良い。

スモーカーの温度を40℃~50℃に保ち、スモークチップで40分程度燻す。僕は今日さくらのスモークウッドを使ったが、ものの本には「渋みを加えるクルミやブナが好適である」と書いてある。

このたらこの燻製だが口に入れると甘みが浮かび上がってくるから不思議だ。

tarako

たまごの燻製はもう少し手間がかかる。作り方はたまご6個に対し砂糖30g、塩35g、水3カップで作った調味液でたまごを5分煮てそのまま1~2時間漬けておく。その後90~100℃で10~15分燻すというものである。

たらこにしろたまごにしろ失敗する可能性の低い素材であるし、万一上手くいかなくてもそのまま食することができるものであり気軽に取り組むことができる。今夜は娘が作ったホウレン草のキッシュとこの燻製を中心に白ワインで楽しい夕食を持つことが出来た。燻製は男の手料理であり、一家団欒の良いきっかけにもなる。

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高速道路債、超長期債の試金石になるか?

2005年12月07日 | 金融

昨日(12月7日)の日経新聞に独立行政法人 日本高速道路保有・債務返済機構が20日に国内初の40年債を発行するという記事があった。利率は2.99%で超長期債の発行で金利リスク上昇リスクを避けるというコメントが付いていた。この超長期債の発行が今後日本の金融市場にどのような影響を与えるか少し考察してみよう。

まず同日付のウオール・ストリート紙の関連記事から見てみよう。

  • アナリスト達によればこの機構債は日本政府が超長期国債を発行する道を開く可能性があると言う。(現在最も長い国債は30年債)
  • ほんの一握りの政府や企業のみが30年を越える債券を発行している。フランス政府は今年2月に50年債を発行し、続いて英国が50年債を発行した。
  • 財務省筋はこの40年債の売れ具合に興味があると言う。
  • 幹事会社のゴールドマン・ザックスによれば、この40年債の買い手は生命保険会社・信託銀行、投資信託、資産運用会社、公的機関ということである。幹事会社によれば「40年債のベンチマークはないので、投資家の意見を聞きながら需要を積上げたところ多くの需要があることが明らかになった」ということである。

発行体側に金利が低いこの時期に超長期債を発行する需要があることは明白だが、投資家サイドに何故強い需要があるのか?を考察する必要がある。そのために超長期国債の先導者であるフランスと英国の事情を見てみよう。

フランス超長期国債はシンジケート方式で発行されたが、3倍以上のオーバーサブになった。英国はオークション方式なので単純比較はできないが1.6倍のカバー率であった。いずれにしろ相当な人気である。

英国の国債発行当局によれば、超長期国債の主要な買い手は年金基金である。年金基金が超長期国債を購入する理由は、国際会計基準の適応と規制強化で年金債務と年金資産のデュレーション(満期までの期間)のミスマッチの削減が求められているからである。

若干解説を加えると、企業や年金基金にとって加入者に対する年金支払債務の時期は極めて長い。一方年金資産の運用を10年程度の債券で行なっているとする。この場合金利が低下すると債務・資産とも評価額(現在価値)が拡大するが、デュレーションの長い年金債務の拡大の方が年金資産の拡大額を上回るのである。これがデュレーションのミスマッチ・リスクである。このリスクを回避するため、年金基金は資産サイドのデュレーションの長期化を図るべく超長期国債を購入するのである。

日本の企業年金基金も同様の問題を抱えているため、超長期国債が選考される可能性が高いと考えられるがクーポンレートの水準は大きなポイントになる。その点からも機構債の売れ行きは見ておきたいところだ。仮に機構債の発行利回りが3%程度で成功するならば機関投資家が長期的に見て3%程度を座りどころの良い金利レベルと見ていることになる。

仮に日本政府が超長期国債の発行に踏み切り成功した場合次のような影響を考えておく必要がある。

  • 10年国債等期間の短い債券から超長期国債へのシフトが起こる結果10年国債等の需給環境が良くなり金利を押し下げる効果がある。
  • 英国で起きている様に年金基金が株式投資ウエイトを下げて国債投資ウエイトを高める可能性がある。この場合は株式市場に売り圧力が働く。

この程度のことを頭に入れながら高速道路債の売れ行きを見ておくことは悪くない。

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アクセストラブルとCookie

2005年12月06日 | ブログ

日曜日の夜、ブログを書こうと思ってブログ人にアクセスしようと思ったがアクセスできない。ストレスが溜まったが、サーバー側の問題かもしれないと思い(週末の夜中々ブログ人のサーバーにアクセスできないことがたまにあるので)翌日回しにした。月曜日に再トライしたところやはり駄目なので、ブログ人にメールで照会した。メールを出した後、再度ヘルプをよく見るとCookieを一度解除してやると上手くいくかもしれないことが分かりトライすると解決した。(本日ブログ人からメールが来て同じ趣旨のソリューションが示されていた)

ところでCookieってなんだ?と思って少し勉強。

アスキーデジタル用語辞典によると「ユーザー情報やアクセス履歴などの情報をWebブラウザとWebサーバ間でやりとりするための仕組み。Netscape Communicationsによって開発され、各種Webブラウザが対応している。」ということ。

 ホームページにアクセスすると、Webサーバは適用するドメイン名、パス、有効期限などの内容を書いて、ブラウザに送信する。ブラウザ側はそのヘッダの内容をローカルのHDDにテキストファイルで保存しておき、次回そのサイトを訪れたときにはWebサーバ側にCookieを送信する。

ところでCookieは食べるクッキーと同じスペル。どうしてCookieというか?と調べてみるとUnixが最初にこの機能をMagic Cookieと名付けたことによるらしい。

という程度のことは分かったが、どうして日曜日の夜障害が発生したのだろうか?PCにCookieが溜まり過ぎて障害が起きたのだろうか?

迅速にメールで教えてくれたブログ人さんには感謝するが、どうして障害が起きるのか?障害はユーザのPCだけの問題なのか?それともサーバ側にも何か問題があるのかといった問題を解説してくれると助かるのだが・・・・

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サムライ、将軍そして忍者

2005年12月06日 | 金融

最近のウオール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)によると、外国企業向けの円建シンジケーション・ローンが活発になっておりこれを忍者ローンと呼ぶらしい。忍者ローンの名付親はみずほコーポレート銀行である。みずほコーポレート銀行は日本国内のシンジケーション・ローンのリーダー格でシェアは39%だが、最近米国と欧州の3つの企業(発表せず)に合計1千億円の円建シンジケーション・ローンをアレンジしたということだ。

サムライ債とは外国の政府や企業が東京市場で発行する円建外債のことで、将軍債とは東京市場で円以外の通貨(大部分米ドル)により外国の政府や企業が発行する債券である。そして忍者ローンは円建のシンジケーション・ローンという訳だ。みずほコーポーレート銀行によれば、やがて忍者ローンの総額がサムライ債の総額を越えるかもしれないということだ。同行によればサムライ債の発行額は年1兆5千億円程度だが、忍者ローンの組成額は年間2兆円から3兆円程度になると予測している。

また忍者ローンは日本のシンジケーションローン市場を拡大させるとアナリストは見る。というのは、日本のシンジケーション・ローンは銀行総貸出の5%程度であるが、米国のシンジケーション・ローンは銀行総貸出の30%から35%に及ぶからだ。

バンカー達によれば、忍者ローンはサムライ債よりも幾つかの点で有利なところがある。一例ではプライシングとコベナンツ(財務制限条項)がローンの方がより柔軟ということだ。例えば債券は発行者の財務状況等が変化しても利払金額は変わらないが、ローンではこれを変えることができる。

また外国企業にとっては日本が世界で一番信用リスクスプレッドが低いので、安く資金調達をすることができる。

以上が記事の概要だが、金融市場への影響等若干考察してみたい。

  • シンジケーション・ローンの拡大は、みずほ等大手都市銀行の貸出と手数料採算が拡大し、地方銀子等の貸出シェアが食われることにつながる。つまり大銀行はいよいよ強くなる。
  • コベナンツや借入人の信用状況により貸出スプレッドが変化するローン契約は、銀行経営にプラスに働く。
  • 外国企業等による円建借入は借入人が為替リスクを回避するため、通貨スワップ・為替先物予約を行なうはずなので為替市場へのインパクトは中立的なはずである。ただし借入時は円売り・ドル(やユーロ)の買いとなるため、円安要因になりうるかもしれない。この当たりは為替・スワップのプロの意見を聞きたいところだ。
  • このシンジケーション・ローンを使った色々な金融商品が生まれる可能性がある。例えば忍者ローンをパッケージにした個人向け金融商品等。

私がサムライ債やユーロ債の仕事をしていたのはもう20年近い前の話であるが、あの頃は日本人投資家の資金を当てにして外国企業が邦銀に日参していたものである。歴史は繰り返し今再び日本人の資金がローンという形で外国に出て行く(昔も円ローンというものはあったが)ことは大変好ましいことである。

みずほグループさん自体は競争先(といってもこっちはかなり小さいが)なのだが、日本の金融市場発展のため新しい試みをされることについては大いに声援をお送りしたい。

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