金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

銀行の年功序列人事も少しは変わるか?みずほ佐藤社長会見

2016年06月06日 | ニュース

今日(6月6日)読売新聞朝刊によるとみずほFGの佐藤社長は「年功序列の意識が根強い人事制度を見直し、重要ポストに若手を積極的に登用する。傘下銀行の支店長は40歳以上で就任するケースが多かったが30歳代でも登用する」ということをインタビューで述べた。

額面通り受け取ればこれは良いことである。またみずほFGは40歳代前半から将来の役員候補を選抜し、帝王学を伝授するそうだ。

これも良いことである。もっとも将来の役員候補の選抜と帝王学の伝授は、声高にアナウンスするかどうかは別として大手行や一般の会社でも既に広く実施されていることだろう。

そこそこの規模の会社には昇格基準というものがある。基準があるから特定の上司の恣意に左右されることなく、部下は安心して働き昇格を期待することができる。ただ世の中「基準どおりの運用」だけで良い訳ではない。

時には基準や規程を超えた運用により、人心にインパクトを与えることも必要だ。

孫子は「無法の賞を施し、無政の令を懸くれば、三軍の衆を犯うること一人を使うが如し。」と述べている。

時には規格外の恩賞を施し、時には一般ルールを超えるルールを定めることで大部隊をあたかも一人の兵士を使うように使いこなす、という意味だ。

そういう意味ではみずほFGが従来の昇格基準を踏み出して若手を登用することは理に適っているといえる。

だが世の中、良い話ばかりではない。登用される人材があれば冷遇される人物も当然出てくる。能力主義はコストカットのために使われることもある。

この前テレビで西武信金の落合理事長がインタビューに出ていたが、同金庫では「60歳の役職定年を廃止し60歳以降でも支店長として活躍する道を開いた」と述べていた。そして実際に60歳以上で年収が200万円以上増えたという支店長の話も紹介されていた。

落合理事長は「同金庫は年齢による定年を廃止し、才能による定年制度に変えた」という趣旨の話をしていた。

これもまた「無法の賞を施し、無政の令を懸ける」方法だろう。どこの年齢層を活性化するために厚遇を図るかは、その金融機関の従業員年齢構成やターゲットとする商売や顧客層によって異なる。若手の登用が良いか、ベテランの活用が良いかは一概にいえるものではない。

ただし二つの金融機関の話を見ると保守的だった金融機関の人事政策にの変化がでているようだ。

コストカットのための能力主義ではなく、新しいビジネスエリアを開くための能力主義であることを期待したい。

 

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米雇用者数急減で今月の金利引上げ見通しは急低下。ドル高加速。

2016年06月04日 | 金融

昨日(6月3日)発表された米国の雇用統計では、5月の非農業部門雇用者増は38千人と事前予想の162千人を大幅に下回った。また3月4月のデータも下方修正されここ3カ月平均の雇用者増は116千人となり、それまでの12か月間平均219千人の半分程度まで雇用ペースが減速していることが明らかになった。

5月の雇用統計では電話会社ベライゾンの4万人のストライキの影響で低い数字がでると言われていたが、その分を考慮してもちょっとショッキングな数字だったようだ。

金利先物価格から割り出した今月の連銀の金利引上げの見込みはそれまでの21%から4%に急落した。

目先の金利引上げが見送られそうだということで、ドル売り円買いが加速して、2円程円高になりドル円為替は106円台後半で取引された。

失業率は前月の5%から4.7%に低下したが、これは仕事を探す人が減ったためと理解され好材料にはならなかった。

雇用形態別ではパートタイムが139千人増加し、フルタイムが59千人減少した。

明るいニュースの少ない雇用統計の中で、良かったの時間当たり賃金が前月比0.2%上昇したこと。前年比では2.5%の上昇となった。

全般的に景気回復基調にあると思われていた米国の雇用に急ブレーキがかかった理由については今後色々な分析がでるだろうから着目しておきたい。

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否決されるだろうけど、ちょっと気になるスイスの「貨物機マネー」プラン

2016年06月03日 | ニュース

今世界が注目している欧州の国民投票は今月23日に予定されている英国のEU離脱可否投票だ。

世論調査では可否拮抗かやや離脱支持が多いようだが、ブックメーカーの賭け率を見ると残留支持が多い。金が賭かった方がより正確な予想がつくという意見もあるので、私は英国のEU残留の可能性が高いのではないか?と判断している。

ところで日本ではあまり注目を集めていないようだが、今週日曜日スイスである国民投票が行われる予定だ。それは「ベーシックマネーという一律の金額を全国民(ただし子どもは減額)に政府が配る」という制度に関するものだ。配る金額は特定されていないが1人毎月2,500フラン(1フラン=110円として27.5万円)という見方多いようだ。

ベーシックマネーは総ての人に配られる。低所得者にも富豪にも。つまり必要とする人にも必要としない人にもだ。究極のヘリコプターマネー、いやヘリコプターではなく、大型貨物機で空からお金をばらまくような政策である。

スイスでは10万人の支持者を集めるとどんな法案でも国民投票にかけることができるので、このような一見荒唐無稽と思われる政策も国民投票の対象になる。ただし大方の予想ではこの法案は国民投票で否決されるだろうという。

WSJによるとスイスの労働組合連合の幹部は「このアイディアは魅力的に見えるけれど、実現するには余りにも困難だ。我々は総てのことを不確実性の世界に置くよりは、社会保障制度の改革を望む」と述べている。

仮にベーシックマネー政策法案が可決された場合、財源はどうするのだろうか?ということを考えると「既存の社会保障費を大幅に減らすか増税をするかあるいはその組み合わせ」ということになる。また働かなくても毎月2,500フランのてお金が貰えるということであれば、勤労意欲が低下し経済活動が低下するという懸念は強い(なおスイスは物価が非常に高いので月2,500フランは大した金ではないという見方もある)。

スイスのベーシックマネーというアイディアは一目みると荒唐無稽のアイディアに見えるが、よく考えると安倍内閣が決定した消費税引き上げ延期も実は同じような性格を持っていると考えられる(もちろん一人一人に与える金額のインパクトは違う)。

つまり本来は不足している社会保障費等に充当するべき消費税を徴収しない(ある意味ではその分のお金をヘリコプターで撒いている)からである。

消費税引き上げ延期の恩恵は、広く薄く総ての所得階層の人に及ぶ。消費税が引き上げられても所得性向が変わらないような所得層もその恩恵を受けるのである。一方徴収した所得税を本当に社会保障を必要とする人に配分することは先送りされる(あるいは先送りされない場合は国の借金が増える)のである。

スイスの一部の人が提案しているベーシック・インカムは私は現実的な政策だとは思わないが、スイスの財政状況は健全で国の債務はGDPの45%に過ぎない(日本の債務はGDPの2.5倍)から、日本人が思うほどには荒唐無稽ではないのかもしれないが・・・

むしろスイス人から見れば多額の借金を減らす具体策を考えずにヘリコプターマネーを配り続ける日本の方が荒唐無稽に思えるかもしれない。ただし実際にスイス人に聞いた訳ではないので、これは私の推測である。

 

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アベノミクス、失速か?構造的破綻か?

2016年06月02日 | 英語・経済

今日の新聞一面は昨日安倍首相が記者会見で発表した消費税引上げの2年半(2019年10月まで)の延長だ。日経新聞のタイトルは「首相、消費税延期を表明 19年10月に10%『世界経済リスクに備え」「参院選で信問う」だ。

WSJ日本語版のタイトルは「消費税の再延期、アベノミクス失速浮き彫りに」である。日本語版は英語版を訳したものだが、英語版を見るとタイトルは

Japan's delayed Tax increase shows 'Abenomics' is sputteringである。日本語訳との間に微妙なズレを感じるのはsputteringを「失速」と訳すところにある。Sputteringは「エンジンがプスンプスン音を立て今にも止まる状態」をさす。この表現は安倍首相の「景気減速リスクを振り払うためアベノミクスのエンジンを最大限ふかす必要がある」英語ではrev up the engine of Abenomicsという言葉を皮肉ったものだろう。

何故皮肉っているか?というと「プスンプスン音を立てて止まりそうなエンジンは「燃料噴射装置」や「エンジンの点火装置」などエンジン内部に大きなトラブルが起きていることの前兆でまず修理工場で点検することが大事、ということが常識になっているからだ。つまり止まりそうなエンジンをふかしたところでかえって車を傷めてしまうというニュアンスがそこには込められている。

WSJは直接的に消費税引き上げ延期に賛否を示していないようだが、記事の最後にジャパン・マクロ・ アドバイザーズのチーフエコノミスト、大久保琢史氏の「投資家や企業幹部はすでにアベノミクスの成功を諦めていると思う。問題は代替策がないことだ」と述べた、という言葉を載せて締めくくっている。

代替案は本当にないのだろうか?私はやるべきことでやっていないことが幾つかあると思っている。長期的に経済を安定成長路線に戻すには、人口減に歯止めをかけることだが、それには時間がかかる。短期的な解決策の一つは移民政策だ。もっと積極的に移民を増やすと良い。特に過疎化が進む農村地方で農業に外国人の力を借りることは検討しても良いのではないか?

次に高齢者の労働力を活用するような施策を打つべきだろう。人工知能やロボットの力を活用して、労働力を捻出し、その労働力を成長分野に投入するといったことも必要だ。これらの施策には当然反対する人がいる。古くなった燃料噴射装置を取り換えるようなもので、コスト(痛み)が伴うからだ。だがエンジンの基本パーツを入れ替えないとエンジンをふかすことはできない。

話は少し変わるが昨日あるところで日本のインフラのピラミッド構造が抱えるリスクの話をした。

上のグラフは年次毎の橋梁の新設件数を示すもので、1970年~75年のピークには年間1万本以上の橋をかけていたことが分る。その橋の寿命があと数年先に迫っているのだ。コンクリートの寿命を50年とすると2020年頃から大量の橋をかけ替える必要が発生する計算になる。

インフラの長寿命化計画も進められているので、架け替え需要を緩和することはできるだろうが、多少の先延ばしの話である。橋だけではない。道路、トンネル、上下水道などのインフラを大量に更新しないと国土が持たなくなる時期は5年から10年先に来ていると思う。

残念ながら今のままではその財源はどこにもない。このような近未来のことを考えると、消費税引上げの見送りは間違った政策だったと私は感じている。もしインフラに大きな破たん(トンネルや橋の崩壊、上下私道の漏水拡大など)が起きるとそれこそ車を動かすことができなくなる。

エンジン失速程度では済まないのである。

 

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