金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

邦銀はどこまで店舗合理化を進めることができるか~通帳と現金社会の壁

2017年11月26日 | 金融

来週ある大手新聞の記者と「銀行店舗の合理化」について意見を交換することになった。

私のブログを見て、「ご意見をお聞きしたい」という申し入れがあったのだ。光栄な話なので喜んでお受けすることにした。

記者の方の予見では「欧米の銀行の店舗合理化の影響を受けて日本でも合理化が課題になっている」というものだが、私は日本の銀行特に多くの地銀は、業務利益の低迷と更なる減少に備えて店舗の合理化は必須の課題だと判断している。

だがFinTeckの導入や店舗の合理化(店舗網の縮小や無人化)について欧米との比較で大きな壁がある。

代表的な壁は「普通預金の通帳」と「現金社会」という壁だ。

普通預金の無通帳化についてはメガバンクやゆうちょ銀行で割と積極的に進めている。だが通帳が完全に無通帳(ステートメントい方式)に切り替わらない限り、通帳発行(新規・繰越)という作業は残る。欧米の銀行でははるか昔から(あるいは当初から?)普通預金も当座預金と同じく無通帳だから、店舗(またはATM)で通帳記帳や繰越という作業がない。その分インターネットバンキングやモバイルバンキングと親和性が高い訳だ。

もちろん日本の銀行でもインターネット専業銀行や外銀は無通帳であるが、多くの邦銀は通帳・無通帳の併用または通帳オンリーであるから、インターネットバンキングを進めても、通帳発行コストや管理(記帳・繰越)コストは劇的には減少しない。

もう一つの壁は「現金社会」という壁だ。現金決済比率が低下している北欧では、現金廃止計画が具体化している。デンマークでは2030年までに現金廃止が決定している。

キャッシュレス先進国のスウェーデンでは2012年12月にSwishが導入され、国民の6割近くが既にSwishを使っている。

日本でもSuicaのような運賃支払いの電子マネー化は進んでいるが、大半の人はSuicaを現金でチャージしている。Suicaをオートチャージしている人の割合は5%に過ぎない。

以上のようなことを考えると、邦銀の店舗網の合理化のハードルは高いと言わざるを得ない。

「現金社会」の壁は銀行の努力だけで打破することはできない。「通帳」にも長い歴史があるので、簡単には無通帳化を進めることは難しいだろう。だがデジタル社会のメリットを活かすためには乗り越えないとならない壁なのだ。

「無通帳化については銀行の本気度が試されている」というのを私の一つの意見として、来週の意見交換に臨みたいと思っている。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「覚える山登り」から「考える山登りへ」~Compasses over maps

2017年11月25日 | 

2日ほど前大阪で大学山岳部時代の同級生たちと飲む機会があった。仲間の何人かはOB会の重鎮になっているので、話題は現在の現役(大学山岳部の部員)がどんな山登りをしているのか?という話になった。

その中で今年の夏、山岳部の連中が北アルプスの岩場の下山路で道に迷い、外部の人の力を借りて下山したことが話題になった。

私は詳しい状況を知らないし、特に詮索するつもりもない。ただそれに関する仲間の議論を聞いている内に、今の学生さんは「覚えること」には熱心だが「考える」更に言うと「直観力を養う」訓練が欠けているのではないか?という印象を持った。

山に関して覚えることとは、岩登りの技術を習熟するとか登る山やルートについて事前に資料を読むということである。これらのことは大切だが、勉強のやり過ぎは時として考える力や直観力に耳を傾ける感性を弱める可能性がある。

このことは受験秀才と呼ばれた人が社会に出てから往々にしてあまり活躍できないことと共通している。

人間のリソース(時間・脳のキャパシティなど)には、限りがあるので「既存の枠組みを学習する」ことにリソースを割き過ぎると、「考える・直観力を鍛える」ことにリソースを割くことができなくなるからだ。

偶々だが、今月号(12月号)の文芸春秋に探検家・角幡唯介さんの「日高山脈地図なし登山」という一文が載っていた。

角幡さんは地図を持たずに日高山脈のある大きな沢を一人で登っていて、広大無辺な大河原に出会う。彼はこの河原を「王家の谷」と呼ぶことにしたと書く。「王家の谷」がどこのことだかは明らかではないが、彼はその後日高山脈にある立派な山への登頂を果たして11日間の登山を終える。

角幡さんはこう述べている。「地図は登山においてもっとも基本的な装備のひとつだ。安全性以前の問題として、地図がなければ現在位置がわからないし、さらにそれ以前に地図を見ないと具体的な計画すら立てられない。・・・・だが同時に、じつは地図こそもっとも登山の可能性を狭めている元凶なんじゃないかという思いが私にはあった。」「登山とは生の山が持つ本来の荒々しさの中に身を投じたときに初めて見えてくる何かのなかにある、とも思う。」

私は日高山脈のような大きな山に地図なし登山をすることはないし、他の人にも地図なし登山を勧めることはないだろう。

だがそれでおもなお角幡さんの言葉には共感するところがある。我々は地図を持つことで「安全性や確実性を確保したと信じながら」、「未知との遭遇」という山登りの根源的な楽しみを放棄しているという主張に共感する。

更に付け加えると「安全性や確実性を確保した」という思い込みが「考える力」や「直観力」を鈍化させるのである。

地図に頼り過ぎると地図を読むことができない状況(深く大きな沢の中では今なお地図が不確かなこともある)に陥るとお手上げになるのだ。山のルートは崩壊などで大きく変わることがある。過去の記録を頼んで山登りをしていると状況変化に対応できないだろう。

山登りでもっとも大切なことは、感性を働かせて、山を感じることである。山を感じた時私の経験ではルートが見えるのである。

MITメディアラボが提唱しているCompasses over mapsという言葉がある。「地図よりも磁石を大事に」という意味で、細部よりも全体の方向感が大切だという概念だと私は解釈している。

実際の登山では地図も磁石も必携品だ。だがなお登山にもビジネスにもcompasses over mapsという意識は重要だと私は考えている。

なお類似した標語でLearning over educationという言葉もある。教育より持続的学習が重要と意味だ。技術革新の速度が速い時代では「教育を通じて覚えた知識」は陳腐化するので、持続的な学習が必要ということだ。

登山技術や用具は変化ていくので、そればかりを追いかけていると本質を見失うことがある。本質は山を感じる感性を大切にして、考える力をつけることだと私は手前味噌な解釈を下している。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

北山時雨の後は虹

2017年11月23日 | 旅行記
京都の紅葉は美しい。楓の赤が際立つからだ。紅葉の名所でなくても、ちょっとした公園やお屋敷の庭先に美しい紅葉がある。
北山時雨が街を湿らした後、大きな虹がかかった。
二本の虹がかかるのを見るのは珍しい。
立ち止まってスマートフォンを向ける人が目立った一瞬だった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宅配便ひっ迫時の日米の対応の違い

2017年11月23日 | ニュース

これから年末にかけて、宅配荷物は大きく増える。日米では繁忙時のピークは少し異なるようだが、宅配各社があの手この手の対策を打っていることに変わりはない。

日経新聞ネット版(11月22日)は「年末大忙し、ヤマトや佐川、予約制や事前連絡呼びかけ」という記事で日本の宅配各社の対応を紹介していた。まとめると次のようなことだ。

  • ヤマトは新規の法人客が一度に20個以上の荷物の発送を依頼する場合、出荷日の1週間前までに連絡するように依頼する。一部地域では時給2,000円でトラック運転手を募集するなどして人材確保を急ぐ。
  • 佐川急便は集荷業務について12月は前日までの予約を求める。
  • ヤマトの総量規制で荷物が最も流れ込んでいる日本郵便は、時給1,500円以上を提示して人材確保を目指しているが、前年比1割以上人手不足で事務系社員を現場に回すことも考えている。

一方アメリカでは最大手のUPSは強気だ。WSJは米国宅配業者の対応を次のように報じている。

  • UPSは今年初めて、ブラックフライデー(今年は11月24日)からクリスマスの前週までの出荷について追加手数料を求めることを決めた。これにより出荷業者は「ピーク時を避けて出荷するか」「追加手数料を支払うか」という選択を迫られる。
  • 運送二番手のフェデックスはピーク時の追加料金は課金しないが、標準サイズを超える大型荷物についてはハイシーズン中追加料金を取る予定。
  • 郵便公社は追加料金は課金しない予定。

概ねアメリカの宅配業者は強気で荷主に負担を求めているが、日本の宅配業者は自社の経費負担で年末の荷物増に対応しようと考えていると見える。

サービスレベルでは既に日本の宅配業者に軍配が上がっているが、繁忙時対応でサービスレベルの差が広がることは間違いないだろう。

だがそれは日米運商業者の利益率更には株価の差が拡大することを意味すると考えてよいだろう。

利用するなら日本の宅配業者、投資するならアメリカの運送業者ということなのだろうか?

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バンカメ・メリル、株価のピークは2018年前半と予想

2017年11月22日 | ライフプランニングファイル

昨日の米国株市場はここ2週間ほどの軟調な相場から抜けだし、堅調だった。S&P500はザラ場で初めて2,600ポイントを超えた。

相場を牽引したのは、ハイテクとヘルスケアだった。

ハイテク株にはまだ伸び代があるという期待のもと、新たな資金が流入しているのだろう。

だが株価が高値圏に入ると、いずれは下落するのではないか?という懸念も高まるのが人情というもの。

そんな中バンカメ・メリルは「株価は2018年の前半は上昇を続けるが、後半には下落するのではないか?」という予想を発表している。

同社の予想では、S&P500のピークは2,863ポイント。現在より10%高い水準だ。

今年の株価予想では一番弱気の予想を立てていた(今年のS&P500を2,400ポイントと予想していた)ゴールドマン・ザックスは、2018年の予想を2,500から2,850に引き上げた。

2社の予想から判断すると、S&P500は後1割程度は上昇する可能性が高いと大方の市場参加者が判断している可能性が高い。株高を予想する理由は堅調な企業業績と懸案の税制改革法案が可決されるという判断だ。

バンカメ・メリルが、来年後半に株価の下落を予想する理由は、賃金インフレが顕在化し、賃金上昇率は3.5%、物価上昇率は2.5%になり、連銀の金融引き締め政策が顕著になるというものだ。

もっともこのシナリオ通りに賃金上昇とそれに伴う物価上昇が起きるかどうかは分からない。賃金上昇が起こらなかった場合、強気相場はバブルの様相を呈しながら2019年まで続くとバンカメ・メリルは述べていた。

今年の株高を牽引してきたのは、アップル、アマゾン、アルファベット、フェイスブックなど一握りのハイテク株だった。S&P500全体の今年の株価上昇率16%だが、ハイテクセクターは39%上昇している。

ではハイテク株は非常に割高か?というと必ずしもそうではない。たとえばアップルのPERは15倍である。ハイテク株に伸び代があるという判断にも根拠はあると私は考えている。

以上のようなことを考えると懸念を抱きながらも「一儲けしよう」と考える投資家が多いのでしばらく米国株式相場は底堅いだろうと私は感じている。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする