惑星ダルの日常(goo版)

(森下一仁の近況です。タイトルをはじめ、ほとんどの写真は交差法で立体視できます)

谷戸に文化村があった頃

2013-01-08 21:48:39 | アート・文化
 今日は比較的あたたかくなりました。これさいわいと、午後、バイクで中野区立中央図書館まで。
 「谷戸に文化村があった頃――探偵作家 松本泰・松本恵子と文士たち――」という展示が行われています。大正時代のミステリー事情を知る一環として出かけました。

 展示は開架室の一画にある壁面をつかった比較的小規模なもの。「谷戸の文化村」の地図、寄った作家たちの相関図、写真、関係者たちの本などが集められていました。

 中心人物である松本泰(1887-1939)は東京生まれ。慶応大学を出て、〈三田文学〉に作品を発表した後、英国留学。イギリスで出会ったミステリーが気に入り、帰国後の1921年(大正10年)に探偵小説「濃霧」を〈大阪毎日新聞〉に発表。探偵小説あるいは犯罪小説の分野での活動を開始する。江戸川乱歩の処女作「二銭銅貨」が〈新青年〉に掲載される2年前のことです。
 同じ時期に東中野の谷戸(中央図書館があるあたり)に自宅と賃貸住宅を建設して文化人を住まわせ、あたりは「谷戸の文化村」と呼ばれたそうです。
 1923年には奎運(けいうん)社という出版社を興して〈秘密探偵雑誌〉を刊行、5号まで出して関東大震災で停止した後、〈探偵文藝〉と改題して続行。谷譲治(別名、林不忘・牧逸馬)や城昌幸をデビューさせた。
 自らの小説に『三つの指紋』『呪の家』、評論集に『探偵小説通』などがある。

 ロンドンで知り合って結婚したという奥さんの松本恵子さん(1891-1976)も才媛で、探偵小説を書いたり翻訳をしたりしています。翻訳では児童文学の分野で貢献が大きく、『小熊のプー公』(ミルン作、石井桃子さんの訳より1年遅れで出ています)や、『四人姉妹』(オルコット作、といえばわかりますね?)といったタイトルのものも。

 個人的には松本さん夫妻と馬場孤蝶とのつながりが興味深いものでした。慶応の先生だった孤蝶が松本泰を指導したことからの縁のようですが、だとすると、孤蝶のミステリー趣味が松本夫妻にうつったともいえますね。
 松本夫妻の歩みは、森下雨村の〈新青年〉とは少し離れたところに位置していますが、早稲田に通いながら同郷の先輩・馬場孤蝶にも私淑した雨村とは、おおもとで繋がっているのだと感じました。

 この展示は今月24日(木)まで。