最近エコノミスト誌が邦銀の行方について「問題はどこから顧客を持ってくるかだ」The question for Japan's megabanks is where new custom will come fromタイトルで記事を書いた。特段新しい話題ではないが、大手邦銀幹部の中にはエコノミスト誌の読者もいるだろうから多少影響を与えるかもしれない。エコノミスト誌の英語は概して難しいがこの手の邦人読者を意識したような記事の英語は割と簡単なのだ。エコノミスト誌は使い分けをしているのだろうか?
ポイントを紹介した上でコメントを加えよう。
- 1月4日に資産規模1.6兆ドルという世界最大の銀行三菱東京UFJがオープンした。同行を含む3代メガバンクは金融危機時代の産物である。
- ピーク時(1986年)にトップクラスの邦銀の時価総額はTOPIXの4分の1以上を占めたが、どん底の2003年4月にはその時価総額割合はたった2.7%になった。しかしその後銀行株価は16倍になった。銀行株は日本株を5年振りの高値に持ち上げたエンジンだった。
- 今や邦銀は1997-8年のアジア金融危機で急速に撤退して以来始めて海外活動の拡大すら考えている。今週三菱東京は中国銀行に3億ドルの投資を考えていると言われた。多くのアナリストや投資家はメガバンクは単に角を曲がっただけではなく、彼等の前には明るい道が開けているという確信を示している。これは正しいのか?
- 確かに銀行は長い過去に較べてはるかに健全である。2002年3月不良債権比率が8.4%だった時、政府は2005年3月までに不良債権比率を半減させる目標を立てたが、銀行は目標を達成し昨年9月には同比率は2.4%に低下している。
- これらは政府の援助があってこそ達成できたものだが、今邦銀は劣後債務の返済を始めている。みずほは今年中に6千億円の公的資金を返済すると予想されているし、三菱UFJ、三井住友も各々8200億円、1兆1千億円の公的資金を1,2年の内に返済すると予想されている。
- しかし邦銀の利益と公的資金返済能力は景気回復による貸倒引当金の戻入れにより大きく拡大している。そこで邦銀の健康状態にぐずつく懸念がある。
- 一つは過度な情報技術システムである。もう一つは銀行による不動産ファンドに対するノン・リコースローンの規模である。しかし金融庁の遠藤 英俊室長は「銀行はついに過去の問題を押しやることができ、将来の戦略を立てる曲がり角にきた」という
- 戦略?気まずい質問だ。利益の大きな部分が貸倒引当金戻入から来ていることからすれば収益性は国際標準の較べて極めて低い。企業与信市場は滅茶苦茶だ。貸出の収益性は日銀がゼロ金利政策を放棄した時~恐らく来年だが~改善すると推測される。それは預金金利の上昇より貸出金利の上昇の方が早くその差を銀行が享受しうると思われるからだ。
- しかしほとんど総ての人が将来企業がもっと借入で資金を賄うことを予想している。それ故3大メガバンクは中小企業向け貸出に注目している。特に三井住友は年商10億円以下の企業に焦点を当てている。同行は担保を求めず産業別ポートフォリオ運営を行なっている。同行は5千万円以内のローンについて3日で答を出すことを約束している。このタイプのローンは急成長しているが、その大きな部分は規模の小さい地銀の商売を奪ったものである。しかし世界的な債券ファンドマネージャーPIMCOの尾関アナリストは中小企業融資は競争により利鞘が縮小するので必ずしも自動的な収益増強策にはならないという。
- 望みは単に金利収入だけではなく手数料収入を増やすリテイルバンキングを修復することにある。単調な支店はゆっくりながらコンサルティングセンターとして化粧直しをされている。また新しい金融商品~例えば三井住友が世銀債を販売している様に~の販売の成功例もある。
- しかしリテイルビジネスの確固たる基盤がはっきりすることは難しいだろう。まず始めに日本の人口は減少しはじめている。人口動態は銀行に味方しない。住宅ローン貸付は増えている。しかしこれは公的機関からの借入の民間シフトで一度限りのことである。
- 過去数年間支店網を削減をしてきたことはその時点でのコスト削減に貢献したが、新しい収益源の種まきと刈り取りと言う点ではマイナスに作用している。ゴールドマン・ザックスのアトキンソン氏は3大メガバンクの中でリテイルビジネスでもっとも訴求力のないみずほは、個人客一人当たり年間20分しか時間をかけることができないと計算する。これは複雑だが収益性の高い金融商品を販売するには実行不可能な短い時間である。
- 大手銀行は困難を脱したものの、今貧弱な収益性と生産性に悩まされようとしている。従って彼等は厄介な情報システムの合理化やアウトソースあるいは人員削減で経費削減することを求める投資家の圧力を受けつつある。しかしそれには時間がかかる。差し当たり彼等は海外に収益源を求めようとしている。しかし国内に強固な基盤なくして海外に出ることは賢明ではないこもしれない。
エコノミスト誌のいうところをもう少し具体策に落とし込んで考え見よう。
まずシステム問題だ。邦銀と米銀のシステム負担の大きさは次の点で大きく異なると私は見る。一つは普通預金通帳の有無でもう一つは電信送金の有無である。この2つの相違はATMの機能の差にも出てくる。電信送金や自動振替は決済機能に深く組み込まれているので米国型(小切手送付型)に向かう訳にはいかない。しかし普通預金の無通帳化にはもっと積極的に取り組んでも良いのではないかと考える。更には提供する商品の数を出来るだけ絞ることだ。店頭にあふれる金融商品の中には顧客のためにも銀行のためにもならないものが多すぎる。これらは規制時代の遺物である。これらを整理することなくしてシステム負荷は減らない。
次はオペレーションのシンプル化だ。公共料金の支払など銀行に行くよりコンビニで行なう方がはるかに早い。銀行がもしオペレーションを簡素化できないのであれば、銀行店舗の中にコンビニを入れ公共料金の支払などはコンビニでやって貰う位の発想の転換がないとだめだろう。
そうして銀行は投資信託等の複雑な金融商品の販売に力を入れる。これが銀行のビジネスモデルだろう。