金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

米ドル債に潜むリスク

2006年01月05日 | 金融

新年の株式相場は堅調だ。といってもまだ2日目なのだが。国内債券も堅調だ。普通株高だと債券が売られるがともに堅調である。新聞によれば国内債券は株から離れ米国金利の影響を受けるという。

さてその米国債券だがウオール・ストリート・ジャーナル紙によれば大方の予想に反し今年は幾つかのリスクを内包という。もっともその指摘が当たるかどうか分からない。新聞も商売であるから「人の気を引く」ことを書くものだからだ。ただし今年の金融市場を予想する上で大事なチェック・ポイントであることは間違いないので簡単に紹介しておこう。ウオール・ストリート・ジャーナルが上げるリスクとは逆イールドカーブ、GM・フォードのデフォルトリスク、企業の配当増・自社株買取による格付低下リスク、プライベート・エクイティによる投資適格企業買収リスクである。

  • 高値に満足して良い気分になっていることが、市場がトラブルに向かっていることを意味するならば、2006年は米国の債券にとって困難な年だろう。
  • ここ2年間ウオール・ストリートの予言者達は投資家達は低い長期金利に飽き飽きして債券を売るので債券価格は下落(利回りは上昇)すると予測してきた。しかし投資家達は債券を買い続け金利はしっかりしていた。そして今や予測者達は今年は大方静かな年だと予測し始めている。
  • 昨年債券市場は殆ど危険を無視していた。連銀が短期金利を2.25%から4.25%に2%も引き上げ、世界最大の事業債発行者のGMとフォードがジャンク債の格付に低下したにもかかわらず債券価格は高止まりしていた。
  • 10年国債の利回りは2004年末が4.22%で05年末が4.39%だった。債券需給を支えた外人投資家は米国事業債の保有高を2005年の最初の10ヶ月で3,110億ドル増やした。これは2004年全部の増加額より多い。またクレジット・デフォルト・スワップ市場は2005年半ばに12.43兆ドルに達した。ISDAによればこれは2004年半ばの倍以上になっている。
  • 今年の前半のどこかで連銀は岐路に到達する。連銀はいつ金利引き上げを止めるか決定しなければならない。連銀の連続的な金利引き上げにより、逆イールド現象が起きている。逆イールドは過去40年間で2回の例外を除いて景気後退につながっている。
  • 今回の逆イールドが景気後退の前兆にならないにしても、それはヘッジ・ファンド、銀行その他の投資家に直接的な悪影響を与える。それは短期のファンディングで長期投資を行い利鞘を稼ぐという取引を不可能にするからだ。
  • GMとフォードの心配の種が投資家の心に付きまとう可能性がある。万一GMが破綻したクレジット・デリバティブ特に合成された集合担保(Synthetic collateralized obligation. CDO)の影響は予測し難い。
  • 投資家~多くは欧州・アジアの銀行と保険会社~はシンセティックCDOを通じて実質的にGMの債券の2兆ドルのリスクを引き受けている。格付会社によれば半分以上のCDOはGMまたはその金融子会社GMACの債券を含んでいる。ということは一つの大きな事業会社のデフォルトが多くのCDOの格付低下の引き金を引くことを意味している。
  • 2005年に米国企業収益は増加したが、株価は上昇しなかった。株価を上げるために企業は配当増加と自社株買取で投資家へ利益還元を図った。この株主優遇策は債権者への配分が少なくなることを意味するので格付が低下する可能性がある。
  • プライベート・エクイティは投資適格銘柄債券を保有している債券投資家にとって2006年の最大の脅威になる可能性がある。プライベートエクイティファンドは買収した会社で借入を行なう傾向があるので、被買収会社の格付が低下し債券価格が下落する引き金になる可能性がある。プライベートエクイティによる買収はトムソン・ファイナンシャル社によれば昨年の買収取引の15%を占めた。
  • 勿論上記の潜在的なリスクの内どれも起こらない可能性はある。外国人投資家は債券価格が下落し始めていても米国債券を買い続けている。多くの新興市場では金融状況と格付が顕著に好転している。格付会社は企業デフォルトのわずかな増加を予測するのみである。しかし幾つかの投資家は物事が悪化する屈曲点にいると感じているようだ。

ところでGMだが、先月13日にS&PがB(シングルB)格に2段階格下をした。B格の債券というのは1年以内にデフォルトになる確率が5.7%であるという。

また最近の発表ではGMの米国内シェアは昨年12月に25.9%に低下し(昨年は27.8%)、フォードのシェアは17.9%に低下(昨年は19%)した。

GMとフォードの再建策を見極めることは今年前半の金融市場を予測する上で大きなポイントとなりそうだ。

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