金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

ライブドア・東証取引短縮が教えてくれること

2006年01月19日 | 株式

1月17、18日とライブドア家宅捜査騒ぎと東証取引短縮問題で日本株は大きく下げた。今朝(19日)方は出来高は小さいものの日経平均は一時3百円程上げている。まあライブドア問題は一企業の個別問題で日本株全体への影響は軽微という投資家の判断が強いのだろう。それはそれとして一連の問題は色々なことを示唆してくれる。奇しくもこの問題が顕在化する少し前に私はブログ「金融リテラシィ」「日本の投資家がドルを支える」で投機のリスクを論じたところだった。従ってここであらためてファンダメンタルズを度外視した投機的取引の危険性を繰り返すことはやめる。ただし大手新聞の中にも投資家と投機家の区別も付かない様なコメントがあるのは残念だ。大手新聞の問題と言えば東証のシステム問題についてどうしてもっと海外の事情を踏まえた事実を報道しないのか?という強い疑問にかられる。日経新聞は「欧米並みの(システム)水準が求められているのは取引システムだけではない」といっているのが、欧米の取引システムをちゃんと理解して記事を書いているのか?もし理解していないのであればとんでもない怠慢であり、知った上で言及しないのであれば読者に対する背信であろう。

海外紙例えばウオール・ストリート・ジャーナルは東証の状況について以下の様に報じている。

  • 東証は90年代の経済スランプの時期にコンピュータシステムのアップグレードの手抜きを行なった。そして近年投資家が回復しつつある日本市場への関心を再び高め取引高が増加していることに対し対応が悪かった。
  • 昨日東証は328万件の約定を処理し、売買代金は3兆97百億円だった。ここ数ヶ月の平均的な一日の約定件数は3百万件である。
  • 昨日東証は850万件の発注を受けたが、今年末までには受注能力を14百万件に増強しようと望んでいる。東証幹部によれば「例え1百万件の受注能力アップでもできるだけ早くやりたい」「しかしどこまで能力をアップすれば十分なのか分からない」ということだ。
  • 東証が取引時間を短縮して発注増に対応したのは初めてのことではない。1988年の株式ブームの時にも東証は後場の取引時間を30分短縮したことがある。これは12日間続いた。
  • アナリスト達によればニューヨーク証券取引所とロンドン証券取引所はシステムを監視する高い地位の役員を任命しているので技術的問題を起こす可能性がより少ないということだ。これに対して東証はチーフ・テクノロジー・オフィサーを未だ任命していない。もっとも東証は以前から将来任命するとは言っているが。
  • 加えてロンドン証券取引所は2001年7月の上場以来システムを3度アップグレードしている。ロンドン証券取引所は1年以内に導入するシステムで許容量を66%増強すると言っている。一方ニューヨーク証券取引所は取引の14%だけがコンピュータ経由であり大部分は人手で対応している
  • ネット証券協会によれば、東京の株取引の約17%はオンライン取引であるが、このオンライン取引のため問題が発生していると思われる。小額取引がコンピュータの許容量を食っているということだ。ネット証券協会によればオンライン顧客の数は昨年の間に2倍の220万人になった。より顕著なことは昨年12月のオンライン取引高は1.09兆円になったがこれは一昨年同月の3倍である。Eトレード証券の佐藤役員によれば東証はこの様なオンライン取引の急速な増加を予想できず、能力増強を図らなかったということだ。

以下は私のコメントである。

  • 物事には即時的・短期的対応と長期的対応がある。昨日東証が取引時間を短縮したり今後取引ボリュームに合わせて売買時間を短縮するというのは危機管理の短期的対応としては正しい。仮に取引時間を短縮せず約定した取引の執行ができないような事態を招くとそれこそ大変である。マスコミはこの点をもっときちんとのべるべきではないか?なお東証は長期的には処理能力をアップせねばならず、それを具体化させるマイルストーン(工程表)を市場参加者に示す必要がある。
  • 日経新聞は「世界の信用を失って良いのか」と大きな見出しで記事を書き、東証を譴責しているがこれは水に落ちた犬を叩いているだけで建設的な提案はどこにもない。例えばニューヨーク証券取引所は大半をマニュアル対応しているのにどうして大量処理が可能なのか?などといった突っ込んだ議論をするべきだろう。マスコミや監督官庁は建設的な示唆を行なう必要がある。
  • 東証の問題は日本の株式取引が東証に集中している点にもある。米国ではニューヨーク証券取引所とアメリカン証券取引所双方で上場されている銘柄が多く懸かる事態のリスク分散になっているということを仄聞したことがあるが日本でもこのような対応が必要。日本でシステムというとコンピュータシステムを意味することが多いがもっと広義なシステムつまり証券取引の枠組みの見直しが必要なのではないか?
  • いずれにしろ株取引や金融に関心のあるものは単に日本のマスコミの表面的な情報に頼ることなく色々なチャネルで情報を収集しリテラシィ~教養~を深める必要がある。リテラシィとは行動の指針となるもので、ちゃんとした金融リテラシシィがあると市場の多少の混乱時にも動揺が少なくて済むというものである。
コメント
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