1月5日にエコノミスト誌は大幅ドル安を警告する記事を発表した。実はエコノミスト誌は以前から米国の大きな経常赤字からドルの下落リスクを示唆していた。特に昨年の今頃もドル安を警告していたのだが、昨年は米国と欧州・日本の金利差が米国の経常赤字よりも注目されたためドル高で終わった。この限りではエコノミスト誌の予想は外れたのだが今回の警告は当たりそうな気がする。ドルのロングポジションを取る向きは見直す必要がありそうだ。以下ポイントを紹介する。
- ビル・ゲーツ、ウオーレン・バフェットそして多くのウオール・ストリート街の経済学者にとって2005年にドルは最も意地の悪い驚きを与えた。世界で最も豊かな二人の男と金融市場の予測者達は米国の巨大な経常赤字がドルの下落が起きると昨年予測した。(エコノミスト誌は自分の予想が外れたことを正当化しているとも取れる)
- 彼等は総て間違っていた。米国の経常赤字は8千億ドルへ向けて拡大したもののドルは上昇した。ドルは多通貨貿易加重平均ベースで4年振りに上昇(上昇幅は3.5%)し、ユーロに対しては14%高の1.18ドル/ユーロとなった。円に対しても同様である。
- 今年のドルの見通しについて大方の予測は年の後半に緩やかに下落するというものだ。それはドルの昨年の上昇が米国と欧州・日本の金利差拡大に起因すると大部分のアナリストが見ているからだ。この金利差は年後半に若干縮まる前に向う2,3ヶ月は拡大すると予測されている。
- 米国連銀は2005年に短期金利を8回引き上げて4.25%にした。反対に日本はゼロ金利政策を持続し、欧州中央銀行は12月に一度だけ金利を引き上げ2.25%にした。しかし米国の金利引き上げが頭打ちになり、欧州と(恐らく)日本が金利を上げるとドルは弱くなるだろう。最近ロイターが市場予測をまとめたところではドルは今年末には1ユーロ1.25ドル、1ドル108円というのがコンセンサスである。
- 2006年初めの数日をベースに判断するとこれらの予測は希望に満ちすぎているかもしれない。ドルは過去2年間で2日間の最大の下落を見た。この下落の一つの理由は投資家がどれだけ早く金利差の拡大が止まるかということに神経質になっていることがあげられる。経済理論によれば金利差の拡大は一時的に為替レートを強くするものである。時間の経過とともに国際的な金利差は金利の高い通貨の下落で相殺される。
- 金融市場も又金利の影響力に取り付かれ過ぎてきているのかもしれない。歴史的に見れば為替レートの短期的な動きを予測する上で金利差が他のものより特段役立つことはない。
- そしてドルについての懸念材料は沢山ある。2005年にドルを支えた一つの明らかな理由は一回限りの米国企業の海外利益の国内送金に対する税制優遇措置である。しかしこれはもう終わった。
- 原油の輸出者は多くの人々が予想するよりははるかに移り気で不安定であることが明らかになるかもしれない。2005年には原油価格が高騰したので産油国は対外準備が拡大し、その大きな部分がドル資産になった。このことから幾人かのアナリスト達は原油輸出国はドルの持続的なサポーターであると結論付けた。しかし他方原油輸出者も他のものと同様米国の金利上昇に魅力を感じていたという見方もある。最近の国際決済銀行の研究によればOPECメンバーの外貨預金の組み合せはより金利差に敏感になっていることを示唆している。
- 中国はもう一つの不確実性の原因である。中国は2005年7月に僅かに為替レートを変更しただけだが、今年は市場が予測するよりも大きな元の変動を容認するかもしれない。今週中国は元がより早く強くなることを可能にするスポット取引を行なうマーケッティングシステムを導入した。
- しかし最大の影は依然として大きくかつ拡大する米国の経常赤字である。これを削減するためにはドルがもっと安くなることが必要である。ゴールドマン・ザックスのオニール氏のモデルによれば、金利差からすれば現在より10%ドル高の1ユーロ1.10ドルになるべきだが、経常赤字懸念からドルが既にディスカウントされていると彼は言う。本当のリスクは金利差が消えて経常赤字に関する懸念が舞台の真ん中に出ることだ。その結果ドルは急激に下落する可能性がある。
山高ければ谷深しという。本来下落するべきドルが金利高や突発的要因で高くなっていたとすればそれらのツッパリ棒がなくなった時反動で急激なドル安がくることは大いにありうる。いずれにせよ為替は事実ではなく心理で動く面が多い。今市場が何に注目しているか?ということが問題なのだ。エコノミスト誌の記事が話題を提供してドル安が進む可能性もあるかもしれない。