3月27日に開催される独占禁止懇談会で「特殊指定の見直し」が議論される予定だ。これを受けてか日本新聞協会は昨日の総会で「公取委に対し、特殊指定の堅持を強く求める」という特別決議を全開一致で採択した。
これに合わせて新聞では識者と称する人の賛成意見を掲載している。例えば読売新聞(3月16日朝刊)は山本 一力氏の意見を載せているので、そのポイントを紹介しよう。
- 新聞の宅配制度というのは世界に誇れる日本の文化
- 新聞の価格は今でも十分に安い
- 全国均一価格が宅配制度を維持し、活字文化と民主主義の根幹を支えていることは議論の余地がない。
また前述の特別決議は「憲法21条で保障された報道の自由は・・・同一紙同一価格で戸別配達により提供されることにより実現される」と論じている。
私は新聞の特殊指定廃止を強力に主張するものではないが、読者を惑わす様な一方的な情報提供については等閑視する訳にはいかないので敢えてこれらの記事を批判する。
まず新聞の「宅配制度は世界に誇れる日本の文化」という文章だが、これは読者にあたかも日本だけが新聞の宅配を行なっているという誤解を与える。私が米国はニュージャージー州で暮らしていた時も新聞は毎日宅配された。更に言えば日本(今西東京市に住んでいる)では時々配達漏れがあるが、米国では5年間の間に大雪の一時を除いて配達漏れは一度もなかった。宅配制度は別に日本だけの文化でもなんでもないのである。
次に新聞の価格が安いという議論。そもそも物やサービスが高いか安いかという議論は比較でしか成り立たない。そこでアメリカの現在の新聞の宅配価格が如何ほどか調べてみた。まずニューヨークタイムスの朝刊のみの宅配価格は週4.85ドルつまり月19.4ドル、現在の為替(118円)で換算すると2,289円である。またウオール・ストリート・ジャーナルは紙ベースの宅配のみで年間99ドル=1万2千円弱、インターネット閲覧付で年間125ドル=1万5千円弱である。これらはキャンペーン期間等の問題があるかもしれないが総じて日本より安い様だ。また紙面の豊富さから言えば明らかにアメリカに軍配があがると思われる。
次に「全国均一価格が宅配制度を維持し、民主主義の根幹を支える」とか「報道の自由は同一紙同一価格の宅配で実現される」などと言われると牽強付会の説は止めて欲しいといわざるをえない。
反証は一つで十分であろう。米国は全国均一価格で宅配サービスを提供している訳ではない。つまり地域によって若干ながら宅配料金が異なる。しかし宅配制度は維持されているし民主主義の根幹がこれによって揺るいでいるとも思われない。
更に言えばアメリカの一流新聞は安いがその情報の豊富さと分析の鋭さで、私は日本の新聞を遥かに越えていると考えている。良い情報は多少の価格差を越えて選好されるのである。
今日本の新聞に求められることは、特殊指定の廃止反対云々ではなく、読者を惹き付ける高い情報提供を如何に提供するかという努力ではないだろうか?
我田引水の提灯記事に大きなスペースを割くことなど、読者を愚弄するものだと言わざるを得ない。公平は報道態度とは例えば世界の宅配価格に関する公平な情報を読者に知らせ、読者の判断に委ねるということではないだろうか?