大手消費者金融7社が多重債務者問題について自主的に改善に取り組む考え方を表明した。これは金融庁や国会で高金利融資に対する風当たりが強くなったことを受けたものだ。その背景には今年1月に最高裁が下した「利息制限法の上限金利(15~20%)を越える金利の支払を制限した」判決がある。
ところで新聞等を見る限りでは、消費者金融の問題が上限金利の問題にのみフォーカスし過ぎている様な感じを受ける。今日の日経新聞(3月29日)の朝刊によれば「(消費者金融の)利用者は2千万人に達しており、銀行が取り切れないリスクを引き受け、その見返りに高金利を設定している側面も否定できない」とある。日本クレジット産業協会の統計によれば平成16年度末の消費者ローンの残高は34兆4,999億円で、この内消費者金融会社の残高は約3割の10兆1,571億円と推計されている。従って消費者金融会社利用者一人当たり借入金は50.7万円となる。
この2千万人という数字は極めて大きな数字だ。前掲の日経新聞によれば「現在、消費者金融はかっての『鬼っ子』的なイメージを脱し、大手銀行との資本関係も深い」とあるが、消費者信用というものをナショナル・インフラとして整備する時期に近づいているのではないか?と考える。
もう少し具体的にいうと「顧客の信用リスクに合わせて、柔軟な借入条件が適応できるようにする」「借り手と貸し手の立場をもっと対等にする」「信用リスクが少ない消費者にはもっと低金利で融資を行なうインフラを作る」「借り過ぎ防止のキャンペーン」である。
以上について具体的対策を述べよう。
個人信用情報の計量化・共有化が喫緊の課題
- 日本では個人信用情報機関はほぼ業態ごとに4機関に分かれている。つまり他の業態から金を借りている消費者の情報は把握しにくく、それが多重債務者の発生を増やすとともに、貸金業者の信用コスト(貸倒損失)を増加させそれが高金利に跳ね返っている可能性が高い。このため相対的に信用リスクが少ない消費者が高い金利でローンを借りなければならなくなっている可能性がある。
- 日本の個人信用情報機関とは銀行系の「全国信用情報センター」、クレジット産業協会系の「シー・アイ・シー」、貸金業者系の「全国信用情報センター」、信販・銀行・流通系クレジット等による「シーシービー」である。
- 一方消費者信用の先進国である米国では、数百社の個人信用情報機関があるが、市場シェアの9割を持つ3つの大手会社が業界横断的な個人信用情報を共有していると言われている。
- また米国ではFICO(Fair Issac Corporationの略号)という個人信用情報スコアリングシステムがある。このスコアリングシステムは個人の債務弁済のリスクを300点から850点の評点で示すもので、720点以上なら良好、600点以下なら問題ありとなる。スコアリングシステムの詳細は企業秘密で公開されていないが、大枠は開示されている。それは「期日弁済の履行度合い・・・35%」「回転信用枠の利用状況(どれだけ空き枠があるか)・・・30%」「信用履歴の長さ・・・10%」「利用している消費者信用のタイプ(割賦・消費者金融・クレジットカード等)・・・10%」「最近の借入動向・・・10%」である。これを統計的に分析して債務履行の確実性を点数化する訳である。なおスコアリングモデルは連邦銀行の監督を受けるということだ。
- 消費者もインターネット等を通じて、自己の信用情報が正確に提供されているかどうかチェックすることができし、不正確であれば修正を求めることができる。更には信用リスクに関する有利な付加的情報を提供して評価の引き上げも可能である(このアドヴァイスを行なう業者も沢山存在する)
- かなり長い説明になったが、与信判断の材料となるデータを共有することで、信用力のある消費者はより有利な条件で、信用力が乏しい消費者は与信謝絶を含む不利な条件を受けることになる。これは一律に高い金利や少ない与信枠等不利な条件を課すより公平は取引というものではないだろうか?
借り手と貸し手の立場をもっと対等に
- 米国の事情を更に紹介すると消費者の借りる権利を保護する法律がある。これはEqual Credit Opportunity Actという法律だが、借り手は「人種」「宗教」「性別」「結婚の有無」等で差別されることが禁止されている。又貸出謝絶に対しては「具体的な理由」の説明を求める権利があるとする。具体的な理由というのはスコアリングが何点以下だったという程度の説明では駄目だとされている様だ。
- 一方日本では伝統的には「お金を借りることはやや後ろめたい感じ」があった~と私は感じているが~ためか、借り手と貸し手の立場が非対称過ぎると感じている。以下は全くの余談ながら、日本では全般的に取引する両者が対等で応対するケースが少ないのではないか?つまり「元請と下請」「顧客と納入業者」「医者と患者」等の関係。もっと一般的には「コンビニの店員とお客」の関係でも必要以上にお客が大柄になっているケースを散見する。この様な関係が「消費者金融会社と借り手」の間に潜在的に存在する・・・というのが私の見方である。それが借り手の権利行使を抑圧し「グレーゾーン金利」の問題に繋がっているとも言えるのである。
- 従ってまず法律等で「借り手と貸し手の立場を対等化」する様な措置が講じられる必要があるだろう。
もっと低利融資の努力を
- 日本の消費者金融の金利は高い。米国には消費者金融会社にそのまま該当する機能がないのでクレジットカードのリボルビング金利で比較して見る。例えば三井住友VISAカードのリボルビング金利は15.0%であり、米国のクレジットカード会社の今週平均金利はスタンダードカードで13%弱である。(このようなデータがウオール・ストリート・ジャーナルで提供されている)日米の金利差が短期物で4.5%以上あることを考えると日本のリボルビング金利は米国に較べて相当高いといわざるを得ない。
- 日本の金利が高い理由が、金融機関の儲け過ぎであるのか、事務コストが高いのか、信用コストが高いのか即断する材料は持っていないがリボルビング信用面で米国ほど競争がないことは事実だろう。この分野で低金利を掲げて参入する業者があれば今後シェアを拡大できるのではないだろうか?ただし信用コストの軽減を図るべく、前述の様な業界横断的な個人情報の共有が課題となるかもしれない。
最後に
- 日本の雇用慣行や消費者行動が米国に似てくる中で、消費者信用産業ももっと米国の良い点を見習うべきである。(悪い点は見習う必要はないが)
- 個人信用情報の共有化は、長年この分野でデータ蓄積を行なってきた消費者金融会社の優位性を損なうもので反対意見は多いだろう。しかし消費者金融をナショナル・インフラとして全体としての信用コスト削減を図るとともに、消費者に有利な選択肢を提供するためには個人信用情報の共有化が最大のポイントである。
- この問題を等閑視して、上限金利だけ云々するのは意味がない。因みに米国では法令による上限金利設定はないがそれが社会的大問題になっているとは寡聞にして聞かない。少なくとも現段階で私は上限金利の撤廃を主張するものではないが、法定上限金利の引下げだけで問題が解決しないことは明らかである。