最近のエコノミスト誌によれば、日本の個人の外貨取引の勢いは機関投資家を上回るということだ。これからの外為市場の予想には内外機関投資家の動きだけでなく個人投資家の動きもチェックする必要があるということだ。まず記事のポイントを見てみよう。
- 従来日本人は銀行か郵便局に貯金するかまたはたんす預金をしていた。しかし長年にわたるゼロ金利は日本人の習慣を変えた。日本人は今や外為リスクという大きなリスクを求めている。日本人は外貨預金からスタートし、外貨建て投信へ動いたが、更に通貨先物市場に向かっている。このため日本人の個人投資家は外為取引の上で重要な役割を担う様になっている。
- 多くの仲介業者が金融先物取引業協会に昨年加わったことで、個人の外貨先物取引の実態が明らかになってきた。昨年12月までの3ヶ月間で、協会参加者による店頭の秋物取引額33兆円に達した。専門家は今やクリック365という東京先物取引所が運営する新しい取引システムのお陰で非会員メンバーまで含むと総取引高は今や40兆円になると信じている。
- 日本の外為市場のサイズを測ることは難しいが、専門家は130兆円から200兆円と推定する。となると個人取引のシェアは2割から3割になる。為替取引を行う個人投資家はミニ・ヘッジファンドの様に振舞っている。個人投資家は米ドルやオーストラリア・ドルといった高金利通貨を買うことでキャリートレードを行っているのである。
- 最近の円高で取引量は低下している。しかしトレーダー達の中にはこの傾向は長続きしないと考えるものもいる。個人投資家の内ある人達はロスカットを行っているが、ある人達は外貨が安くなったことで外貨投資を進めている。
- ゼロ金利だけが、外貨投資が活発なった理由ではない。東京都民銀行の上級外為アドヴァイザーによれば、まもなく退職するベビーブーマー達は、住宅ローンを完済しており自己資金でリスクを取ると言う。更にその上の年代もそれ程遅れてはいない。銀行でも販売される様になった(グローバル・ソブリンの様な)外国債券投信ももう一つの原因である。昨年の外国債券投信に対する資金流入は19.8兆円でこれは2000年の6倍である。
- アナリスト達はかって日本の通貨は銀行とブローカーによって動かされると信じていた。しかし個人投資家はもっとパワフルになってきている。金融先物取引業協会によれば、個人投資家は15兆円のロング(買い持ち)ポジションを持っているが、これは日本の経常黒字幅と同じサイズで、外国人投資家の日本株に対する投資額よりも大きい。円高にも関わらず、個人投資家は円を売っている。東京都民銀行のアドヴァイザーによれば、日銀が金利を3%に引き上げるまで~これは直ぐには起こりそうもないが~このトレンドは続くということである。
今朝の日経新聞に出ていたが、株式投信の残高が新記録を更新して伸びたそうである。記事に注釈はなかったが、統計上の株式投信という分類は追加設定が可能な外国債券投信等を含む。従って統計上株式投信が伸びていることが即ち投信で日本株が買われていることを意味しない。事実は株式投信では国内株よりも外国債券の伸びの方が大きい。ここは市場を分析する上で極めて大切なところだから、日経新聞もしっかりと要因分析を行って読者に伝えて貰いたい。
ところで個人投資家の強みは、銀行やファンドの様に決算や時価評価がないところだ。つまり含み損が発生していても、それに耐えて投資を継続することが出来る。とは言うものの、先物取引には期日決済とロスカット・ルールがある。期日決済とは約1年以内には総ての先物のポジションを手仕舞う必要があるということだ。ロスカット・ルールというのは、先物取引で損失が5割~8割に達した時、仲介業者が自動的にポジションをクローズし、清算するというルールだ。
以上のようなことを観てくると、最終的にはドル高を予測する個人が外貨ロングポジションを保つことで利益を得られるか?あるいはロスカット・ルール等でその外貨ロング・ポジションが締め上げられるか?ということが円相場を占うポイントかもしれない。もし市場で2-3割の力を持つ個人投資家のロングポジションが潰されると、一気に円高が加速する可能性があることは頭に入れておいて良いだろう。