連休中民放テレビを見ていると、サラ金の広告が目立った。連休でキャッシュピンチに陥った人をターゲットにしているのかもしれないが、与謝野金融相が言うとおり、余り好もしい印象は与えないと思っていた。ところが、今日エコノミスト誌を読んでいるとアメリカのノンバンクが、消費者から年率470%もの金利を取っているという記事に出会った。私のブログでもアメリカの消費者金融に法定上限金利はないことは既に書いているが、ここまで高い金利を取るとは思っていなかった。この記事自体は消費者金融の金利が高いことを主な問題にしているのではなく、アメリカでは預金口座を持てない人が4千万人もいることを問題にしているものだ。日米の金融システムの違いは私が継続的に調べていることなので、ちょっと内容を紹介(そして私のアーカイブスの中に蓄積)しておこう。それにしても4千万人ということは5,6人に一人の割合で銀行口座を持ってない人がいるということだ。アメリカという国は凄まじく格差のある国だと改めて思う。
- アメリカでは少なくとも12百万人が見苦しい業界用語であるアンバンク(Unbank。銀行口座なし)の状態である。これに「不自然な移民」と「信用状況が銀行取引適格以下の人」を加えると4千万人以上が銀行取引を行なっていないと推定される。長年銀行はこの層を潜在的な顧客とみなして来なかった。それはこの貧しくかつ教育レベルの低い層にほとんど収益機会がないと銀行が考えてきたからである。
- しかし変化が起きている。先月シティ銀行はセブンイレブンとパートナーシップを作り、セブンイレブンの店舗内のキャッシュマシーンを使って、銀行口座を持っていない個人に送金・小切手の現金化・公共料金等の支払サービスを提供すると発表した。
ここでちょっと解説が要るだろう。アメリカでは通常当座預金がないと、公共料金の支払~自分で小切手を切り、請求書とともに支払い先に郵送する~や、給料の受取り~通常小切手で支払われるので、それを自分の口座に入金し交換決済で現金化する必要がある~ができない。ところが当座預金を開設するためには、信用履歴ないしはそれを代替するもの~例えばアメリカで信用履歴がない海外からの駐在員の場合は企業の推薦状といったもの~が必要なので、銀行口座を開設できない人が発生する訳である。
- 銀行口座を開設できない人はしばしば「代替的金融サービス提供者」(alternative finacial provider)を利用する。例えば「給料支払日貸付業者」という高利貸しがいるが、これは通常2週間(単純労働従事者の場合、給料が2週間単位で支払われることが多い)の融資を行なうが、しばしば金利は年率換算470%にも及ぶ。更に悪いことに銀行口座がないと、貯蓄を行なうことが困難で、信用履歴を積上げることもできず、合理的な金利でローンを受けることもできない。
- シカゴ連銀とブルキングス・インスティテューションが今週発表した研究によると、銀行口座保有率が高い都市ほど、高い収入・高い雇用率と自宅保有率・低い犯罪率を示す傾向があった。
- 米国には1977年地域再投資法(cCommunity Reinvestment Act)という法律があり、銀行に低収入地域へのサービス提供を求めているが、あまり機能していない。金融サービス改革センターという非営利団体は「銀行は地域協力というボランティアベースではなく、銀行口座を開設できない層を継続的なビジネスの対象と考える必要がある」と言う。
- 驚くべきことに銀行はそうするかもしれない。ビサ・カードによれば、銀行口座を開設していない層は雇用者、政府、保険会社等から年間1兆ドル近くの資金を受取っている。この資金は代替的金融サービス提供者に流れている。銀行が手数料を取ってこの資金の一部でも取り込むとそれは持続的なビジネスになるだろう。またこれは法外に高い金利を支払っているアンバンクな顧客を救うことにもなる。
- しかし貧困層にサービスを提供する正しい方法を見つけることは難しい。幾つかの銀行は顧客が無料の小切手勘定を開設するなら、無料の送金と小切手の安い現金化サービスを提供する試みを行なっている。しかしこのような方法で銀行が利益をあげるには、銀行は罰則手数料に頼る必要があるが、その様な手数料は顧客離れを起こすことになる可能性がある。
ここも解説がいるところだろう。銀行は顧客との間に最低残高維持の取り決めを行なっていて、最低預金残高が維持できないと高い手数料を取る。また顧客が振り出した小切手が残高不足で不渡りになった場合(ただしこの場合、顧客に未決済の小切手が返却されるが日本の様に不渡で銀行取引停止にはならない)に高いペナルティを取る。これが収益源になるという訳だ。
- ジョージア州のエルバンコ銀行は、口座を持たないヒスパニックの移民をターゲットに設立された。同行は小切手の現金化を望むヒスパニックに代替的金融サービス提供者より安い手数料で現金化を行い顧客一人当たり月40ドルの手数料をあげている。
- 他の新しいビジネスモデルはノンバンク金融機関と小売業者から起きている。一つはプリペイドカードである。例えば小売業の巨人ウオールマートは既に毎月数百万枚の小切手を現金化し、送金等のサービスを行なっているが、限定的な銀行免許を申請中である。恐らく銀行口座を保有しない米国人は今後このようなサービスが出てくるので銀行を必要としないかもしれない。
エコノミスト誌は同じ日付で「プリペイドカード」について別の記事を書いているので、これについても簡単に見ておこう。
- 数百万人の銀行口座を持たない米国人にとって次善の策は多分プリペイドカードである。クレジット・カードの成長率はここ数年停滞しているが、プリペイドカード市場はブームになっている。ペロラス・グループという調査会社によれば、昨年1,260億ドルだったプリペイドカードの市場は、2010年までに4,700億ドルに拡大する見通しだ。
- プリペイドカードには電話カードの様に発行者にしか通用しないシングル・ユース・カードとクレジットカードが使えるところならほぼどこでも利用できる多目的カードがある。多目的カードは銀行口座がなくても、雇用者や政府から電磁的に資金を入金することができるし、キャッシュマシーンから現金を引き出し、送金や請求書の支払を行なうことができる。
- プリペイドカードの信奉者達は、更にプリペイドカードがクレジットカードの様な機能、例えばカードに振り込まれる給与を見合いとしたローン機能というものを持つだろうと期待している。これは銀行口座を持たない消費者が信用履歴を蓄積する上で役に立つ。
- もっとも懐疑的な人もいる。多くのプリペイドカードは不透明な料金構造であり、銀行口座よりフィーが高い。規制もまたはっきりしない。幾つかのカードは連邦預金保険に加盟していない。またカードが盗難にあった場合、カード保有者が保護されない。
個人客への集金等過剰サービスを続けている日本から見るとアメリカの銀行は別世界の様だ。しかしこの異なった経路を辿ってきた二つの大国の個人金融業務も、インターネットバンキングやプリペイドカードというところでひょっとするとクロスするかもしれない。継続的にフォローしていきたいテーマである。