金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

世界一のヘッジファンドは米国自身だった

2006年09月27日 | 金融

数日前米国のヘッジファンドが天然ガス相場で50億ドル約5,800億円の損失を出したというニュースは日本の新聞でも割と大きく報じられていた。その後米国はヘッジファンドと監督強化に乗り出すだろうといった話も聞こえてくる。ところがである。最近ウオール・ストリート・ジャーナル紙に米国の対外支払利息が対外受取利息を僅かながらも上回るようになったという記事が出て、その中でゴールドマンザックスのオニールという人が「米国自身が世界最大のヘッジファンドみたいなものだ。それは安い資金を借りて高いリターンを求めて投資している」と言っている。ではどうして支払金利が受取利息を上回る様になったのか?それは米国の短期金利が上昇しているからである。

中々面白い話なのでポイントを紹介しておこう。

  • 過去数年間アメリカ人と彼等の政府は国際金融でベストディールを享受してきた。彼等は海外から数兆ドルの借入を行ない、薄型テレビを買い、家を建て、幾つかの戦争を戦ってきたが、純債務に対する支払はほとんど変わらなかった。2005年末時点で米国の対外債務は13.6兆ドルになっているが、これは一つの家計あたり11万9千ドルの債務に相当する。一方対外債権が11.1兆ドルありネットの債務は2.5兆ドルである。
  • 米国に投資する対外債権者は、例えば中国は2001年以降で2,500億ドルの米国債を購入している様に、米国に安全性の高い投資を行ない相対的に低いリターンを得ている。一方米国は海外に直接投資を行なうことでより高いリターンを行なっている。米国商務省のデータによれば2001年以降の平均リターンは8%になっている。又モーニングスター社によれば米国の投資家は、エマージング市場の株式ファンドで平均22.3%のリターンを上げている。
  • つまり米国は債券の形で対外債務を取り入れ、株式や長期のプロジェクト投資の形で対外債権を持つ傾向があるため、米国はこの両者の利回り格差を享受してきたことになる。これが米国自体がヘッジファンドと呼ばれる理由だ。
  • ところが米国の短期金利が上昇してきたことで、このイージーマネーの時代は終わりに近づいてきた。今年の第2四半期に米国は25億ドルの対外ネット支払利息超過となった。これは過去90年間で初めてのことである。
  • 無論25億ドルの支払というものは、13兆ドルの米国経済の規模に較べると小さい。しかしエコノミスト達はこの傾向が続くことはアメリカ人が現在の生活レベルを維持するためには一層働かなければならないか、あるいは債務支払のために生活レベルを切り詰めるなければならないかということを意味するという。
  • もっともある尺度で見ると、米国の対外債務は相対的に管理可能である。例えばGDPの対比で見ると対外債務はGDPの約2割である。因みにユーロ圏の平均は15%で、英国は17%、メキシコは44%である。しかしエコノミスト達の最大の懸念は米国が早い速度で新たな対外債務を増やしていることである。その結果対対外利子支払負担が増えると経常赤字のコントロールがより難しくなり、その結果外国の債権者がより高い利子を求めるという悪循環に陥る可能性があるからだ。

以上がウオール・ストリート・ジャーナルの記事のポイントだ。米国いや世界で1,2に権威のある経済誌が自らの国民と政府に対して鳴らした警鐘である。

さてこれから米国はどうするのだろうか?景気や不動産市場の減速は、短期金利の利上げ打ち止めを示唆している。したがって米国の対外支払利子が急に拡大する可能性は低い。しかしそれと同程度以上にアメリカ人が消費を抑制する可能性も低いだろう。中々難しい問題である。

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