金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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国家資産基金、新たな金融界の風雲児?

2007年05月25日 | 金融

今週前中国が外貨準備資金のごく一部を米国のプライベート・エクイテティ会社ブラックストーンに投資するというニュースがあった。これを受けて政府による積極的資金運用が海外の経済専門誌(紙)で話題になった。ファイナンシャルタイムズ(FT)、エコノミスト誌ともSovereign-Wealth Fundsのことを取り上げている。この二つの記事はモルガンスタンレーのStephen L.Jen氏のHow big could Sovereign Wealth Funds be by 2015?というレポートをベースにしている。

Sovereign Wealth Fund はモルガンスタンレーのレポートに従い国家資産基金と訳した。エコノミスト誌によると国家は自国通貨の防衛や銀行危機に備えて伝統的に投資資産を保有している。一番最初の国家資産基金は1956年に英国がミクロネシアのギルバート諸島で燐酸肥料の輸出に課金したことに始まる。燐酸肥料は輸出で激減したが、積み立てられたファンドはこの小さな島のGDPの9倍にまで成長した(ギルバート諸島は1979年に独立している)。

国家資産基金の明確な定義は不詳ながら、有名なものはアラブ首長国連邦のADIA(資産残高8,750億ドル)、ノルウェイの国家年金基金(同3,000億ドル)など。なお中国については仮称外貨投資会社(同3,000億ドル)としてノミネートされている。

モルガンスタンレーのレポートによると、現在国家資産基金の規模は2兆5千億ドルで、2015年には12兆ドルに拡大すると予想される。これがどの位の規模かというと年金、保険、投資信託といった伝統的な機関投資家の全世界の資産残高が55兆ドル(2005年末)であるから今のところ機関投資家資産に比べるとかなり小さい。しかし世界のヘッジファンド残高が1兆5千億ドルから2兆ドルと推計されるのでヘッジファンドの規模は上回っている。

本来国家資産基金は緊急事態に備えて積み立てておくもので、流動性が重視され米国国債などに投資されてきた。しかし外貨準備が増え、資産規模が拡大すると流動性を確保しておく必要がある比率は減り、より高いリターンを求めて様になってくる。

ここで金融と投資の世界から国家資産基金について重要性を考察すると一つは資産運用ビジネスにとって巨大なビジネスチャンスがあるということだ。世銀の国家投資パートナーシップ部門のCalari氏は「国家資産基金は未開墾の畑によく似た未開拓の金融資本である」という。

資産運用の観点から見て二つのサジェスチョンがFTに出ている。一つは国債から株式へのシフトが起こる可能性があるということだ。たとえば中国が外貨準備における米国債の比率を落として、その国家資産基金で外国株を買うとすると米国債が売られその結果金利が上昇する。

IMFが最近発表したところでは中央銀行が米国の長期債投資を行うことで債券価格が上昇して利回りを30ベーシスから100ベーシス引き下げているという。

もう一つ興味のある点は円の為替レートが上昇する可能性があるということだ。現在世界の中央銀行が外貨準備として保有している円資産は総資産のたった3.2%に過ぎない。しかし機関投資家のグローバル株式運用者は株式時価総額の比率に合わせて日本株を保有している。その割合は10%以上ある。つまり外貨準備が国家資産基金を通じて積極運用されると円株が買われ、円高につながるという予想である。

しかし疑問はエクイティマネージャーが時価総額と比例的に円株の割合を増やすかどうかである。それは日本への投資リターンに依拠するところが大きいだろう。

いずれにせよ国家資産金(SWF)は継続的に注目するべきテーマになった。

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