昨今の大きな話題は道路特定財源とガソリン等の暫定税率の廃止をめぐる問題である。昭和20年代後半にワトキンス・レポートが「日本の道路事情は信じがたい程に悪い」と報じたことを受け、1953年に議員立法で道路整備に関する臨時措置法が制定されたことが道路特定財源の始まりである。ところで最近テレビ等で識者と言われる人達の話を聞いていると「日本の道路は諸外国に比してもう十分に建設されている」という意見があった。この意見が正しいかどうか考えるスタート点として日本と諸外国の道路の長さの比較を行ってみた。(資料はCIAのFactbookによる)
日本の道路の長さの総合計は118万3千km、内舗装道路は92万5千km、高速道路は6,946kmだ。これを人口一人当たりで見ると、一人当たりの道路は9.28m(舗装道路は7.3m)、高速道路は0.055mとなる。また国土面積と道路の割合を見ると3.15(km/k㎡)となる。
同じ比率を英国とドイツについて見ると、英国は日本はかなり似た数値で一人当たり舗装道路は6.4m(英国では非舗装道路の長さが出ていない)、高速道路は0.058mである。大きな違いは国土に対する道路の割合で1.6となる。ドイツの特徴は一人当たり舗装道路は2.8mと日本の3分の1程度だが、高速道路は0.15mと日本の3倍程度あることだ。また国土との対比では舗装道路の占める割合は0.67と日本の5分の1程度である。
米国と日本を比較すると一人当たり舗装道路は米国は14.8mと日本の倍だ。高速道路は0.24mと日本の5倍近い。しかし国土面積との比較では米国は0.7と日本の4分の1程度だ。
以上のデータは道路の持つ輸送力(つまり車線の数や交差の状況等)を含んでいない。また道路輸送は鉄道輸送や水上輸送と代替・補完の関係にあるので、それらの普及状況も合わせて検討する必要がある。従ってこれだけのデータで日本の道路が諸外国に比べて十分建設されているかどうか判断することは難しいが次のようなことは推論できそうである。
- 国土面積と舗装道路の長さの比率を見る限り、日本は諸外国の倍から5倍程度の道路の長さを持っている。このことは日本の道路の輸送能力が低い(車線が少ない、立体交差等が少ない)か、都市計画や道路計画が非効率であることが原因として推定される。
- 高速道路に関して人口当たりの長さを比較すると、日本は英国とほぼ拮抗する0.055mとなっている。これはドイツやフランスの約3分の1、米国の5分の1である。
北海道や東北地方をドライブして思うことは「道が空いていて実に快適」「こんなところに高速道路が必要なのか?」ということだ。道路は産業の重要なインフラだが、道路を整備しただけで産業が発達する訳ではない。日本の道路行政の問題は道路の整備だけが一人歩きしていることではないだろうか?
過疎地域において莫大な費用をかけて高速道路を建設することも問題だ。むしろ既存の道路の整備や立体化等で費用対効果を図るべきであろう。
さて日本の道路は諸外国に比べて十分普及しているのだろうか?答はYesでありNoでもある。Yesの部分は国土面積や人口対比での舗装道路の普及状況。Noの部分は生活実感としての都市部の交通事情の悪さと高速道路の少なさ。しかしこれらの問題は新しい道路や高速道路の建設で解決するべき問題なのだろうか?私としてはこれらの問題は代替的交通手段(鉄道・飛行機あるいは水運)との組み合わせなどにより解決を図ることを優先して考えるべきだと思っている。残念ながらそれが長年にわたる無策な都市計画と道路計画のつけを払う方法なのであろう。