金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
最近アマゾンKindleから「インフレ時代の人生設計術」という本を出版しました。

団塊の世代、資産運用の波動と地平線

2008年04月28日 | 金融

今月末頃は多くの自治体が3月末に定年退職した公務員に退職金を支払う時期である。遠い昔、某信託銀行で退職金の信託預け入れを勧誘していたことがあるだけにこの話題には懐かしさを覚える。今日の日経新聞朝刊「景気指標」欄に今回の退職手当の総額は2兆4千億円になるとある。向こう10年位この水準の退職金が支給される見込みだ。投資信託の販売に力を入れる銀行・証券会社には大きな関心事だ。

ところで同紙は「すでに10兆円以上支給された民間退職金については投信販売は尻すぼみでお金は定期預金に預けられたままのようだ」と報じる。事実そのとおりなのだろうが、政府が鳴り物入りで「貯蓄から投資」へとスローガンを唱えても、投信や株式投資がもう一つ拡大しない理由は何なのだろうか?

私は新聞等の個人向け投資アドバイス記事などを読んで「つまらないなぁ、役に立たないなぁ」と思うことが多いが、その最大の理由は「資産運用の波動と地平線」が語られていないことだ。

「資産運用の波動」とは、株価や不動産というものは世界経済が拡大する限り長期的には上昇するが、その上昇過程は一様なものではなく、バブル的な急上昇とその反動の急落という大きな波動を繰り返すということだ。これは日本の80年代後半のバブルとその後の長い低迷期、ITバブルの崩壊そして今回の欧米先進諸国の住宅バブル崩壊とサブプライム危機を考えると分かる。

投資の観点から見ると単に「良い会社の株」というものも単に「悪い会社の株」というものもない。世界的に優良会社の株でも、天井で買った株は投資的には良い投資ではない。投資にはタイミングというものが大事である。働き盛りのサラリーマンが毎月コツコツと積み立てを続けるのであれば、株価が上下するリスクは平準化される。しかし退職金のようにまとまった資金で株式投資をする場合は投資のタイミングが非常に重要だ。つまり今「資産運用の波動」がどうか?という外部環境が重要だ。株や不動産を割安か割高かと判断することで、投資姿勢は全く変わってくる。

結論をいうとサブプライム問題で株式市場が下落している今は投資のタイミングとしては良い方だ。株価はやがて上昇に転じ、投資家のリスクテイク意欲が高まり、その内又バブル化していく。問題はこの株式・不動産等の相場の波動と個々人の資産運用と費消のサイクルがうまく噛み合うかどうかである。

「資産運用の波動」については、もっと大きな環境変化からくる波動を考える必要もある。経済活動のグローバル化は、発展途上国の人口急拡大と食糧・エネルギー需要の急増を招き、それが今話題になっている食糧・エネルギー価格の高騰を招いている。無論この中にはバブル的要素はあるが、「金融優位」一辺倒から「実物重視」という潮目が出てきたと見ておいて良いだろう。

「実物重視」の続きでいうと欧州では「2020年問題」が以前から話題となっている。2020年問題というのは、この頃地球規模の食糧・エネルギー不足が発生し大きな問題が起きるという問題意識だ。私は過度に悲観論を取る積もりはないが、今起きている食品価格の急上昇などは、大規模な食糧不足の予兆である可能性は高い。しかしこの問題に関して、日本の政治の対応は極めて緩慢だ。

退職者の株式投資や投信購入が余り伸びない理由は、本質的に退職者がリスク回避的だからだ。リスク回避的なことは悪いことではない。機関投資家もリスク回避的である。保有資産が増えると人はリスク回避的になるのだ。だがもし今の日本の退職者が諸外国の退職者に比べて極端にリスク回避的になっているとするならば、それは「投資教育の不足」などではなく、「少子高齢化」「エネルギー危機」「食料問題」等迫り来る大きな不安に対する政治の対応不足に大きな原因がある。

話が少し大きくなってしまったが、我々団塊の世代が資産運用を考える時、自分の寿命という絶対的な投資の地平線の他に人類のかなり大きな危機が10数年後にあるかもしれないということは考えておいても良いだろう。

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中小地銀に生き残りの危機、米国の話だが

2008年04月28日 | 金融

大手邦銀の株価の戻りが顕著だ。実需よりも空売り筋の買戻しによるオーバーシュート要因の方が大きいのだろう。しかし今の相場がサブプライムローン問題に端を発する流動性危機の山場は過ぎたと見ていることは確かだ。

投資銀行や大手の欧米銀が流動性危機を回避し得たのは、1,800億ドル(約19兆円)を越える資本増強を行ったからだ。

ところが大手銀行の資金調達により、米国の中小地銀が資本増強難に陥っている。米国の地銀の中にはコミュニティ・ナショナル銀行(アイオワ州)、住宅ローンポートフォリオの劣化などから、監督庁(通貨監督庁など)から改善命令を受けている先があるが、資本増強を困難な状態だ。

かっては地銀(の経営者)にとって最後の手段は、大手銀行に身売りをすることだった。一般に米国では買収が行われると、被買収先の経営者は相当な利益を得てリタイアすることが多く、それが地銀の身売りを進めたのである。また大手銀行にとって地銀が保有する住宅ローンポートフォリオは魅力的だったから買収話が頻繁に起きたのだ。

しかし住宅市場の低迷と証券化市場の停滞で、大手銀行にとって中小地銀の魅力はなくなっている。資本調達、身売りとも難しいとなると中小地銀の生き残る道は苦しい。米国では大手銀行が引き起こした流動性の危機の結果中小地銀が破綻するということがありそうだ。

サブプライムの影響が比較的軽微だった日本においては、資本調達において中小金融機関が割を食う事態は起きていない。しかしながら米国発の不況が日本の実態経済に影響を与えるのはこれからだ。日本の中で大きな影響を受けるのは経済活力が弱い「地方」であり、中小金融機関である。

米国の中小金融機関ほどではないが、日本の中小金融機関も又サブプライムと流動性危機の被害者なのである。

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