金融そして時々山

山好き金融マン(OB)のブログ
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子孫のために美田を残せない社会

2008年05月14日 | 社会・経済

「子孫のために美田を買わず」という言葉を残したのは西郷隆盛だった。この言葉の主旨は「子孫のために財産を残そうと思えば残せない訳ではないが、それでは子孫の自立心が育たないので敢えて財産を残さない」ということである。しかし今や先進国では高齢化の結果美田を残したくても残せない時代が到来している。 

最近FTが、HSBCがオックスフォード大学と共同研究したレポートのさわりを紹介していた。それによると21カ国で2万1千人にインタビュー調査を行ったところ、1割以下の人しか相続人に財産を残さないと考えていることが分かった。この考え方はOECD諸国において顕著である。何故ならOECD諸国において、高齢者が死亡する時に既に子供達は成長しており、金融面の支援を必要としないからである。

調査によると米国、欧州、英国の若い世代は政府が退職後の面倒を見るべきだと考えているが、退職年齢に近い世代は政府の援助に対する期待が少なく、個人貯蓄や企業年金スキームに頼るべきだと考えている。HSBCの経営幹部は「各国の政府はこの声を聞いて、老後資金の積立にインセンティブを与える税制優遇措置の導入が必要だ」と述べている。

一方アジアやラテン・アメリカでは、より多くの人々は家族や政府による支援を期待している。

この短い記事の中に日本の問題は論じられていなかったが、私は日本はかなり特異な位置にいると考えている。日本の年功型賃金制度の下では、退職年齢に近づく程賃金が上昇し(正確にいうと55歳当たりが賃金のピークになる制度も多いが)、若年層の賃金は相対的に低い。このため終身雇用という形で企業に依存するか、住居費の負担を減らすために親と同居する若者が多くなっている。

日本で正規雇用者と非正規雇用者の所得格差が大きいことの背景の一つとして親と同居することで、少ない生活費で暮らしていくことができる若年層が相当数存在することがあると私は考えている。しかし親が生きていて年金を貰っている間はまだ良いとしても、親が死亡した後職歴の乏しいまま中年を向かえる子供達はその後どうするのだろうか?

高齢化が進む中、今後物価が上昇し、社会保険料・税金負担が増えてくると日本でも居住用不動産を処分してより小さい住居に住み替えたり、賃貸に移る高齢者が増えてくるかもしれない。そうなると「美田」どころか小さな田畑すら子孫に残せなくなる。

暗い話であるが、そういう時代が到来しないと若者の自立心は高まらないのだろうか?

「家貧しくして孝子出で、国乱れて忠臣現る」という言葉があるが、後世の人は「年金廃れて自立心生まれる」というかもしれない。

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